再稼働控え 島根原発2号機巡る論戦低調 自民、政策より個人売る戦略 立民、支援組織に賛否で回避 衆院補選 島根1区 市民は歯がゆい思いで見守る

立候補者の演説に耳を傾ける聴衆。原発やエネルギー政策を巡る論戦は低調だ=17日、松江市鹿島町北講武(画像の一部を加工しています)

 衆院島根1区補選で、中国電力島根原発2号機(松江市鹿島町片句)を巡る論戦が低調だ。自民党新人が原発を含めて政策より個人を売る戦略を取っていることに加え、立憲民主党元職は支援組織で賛否が分かれるため、従来からの脱原発の主張を封印しているためだ。中電が8月の2号機再稼働を目指す中、市民は歯がゆい思いで選挙戦を見守っている。

 告示日翌日の17日、自民の錦織功政候補(55)の姿は島根原発が立地する松江市鹿島町にあった。中電社員ら約110人を前にマイクを握ったが、安全優先で着実に再稼働を進めるとの自身の考えを伝えることはなかった。

 背景には補選が初めての選挙で、選挙戦序盤は知名度の向上を図るために、政策より経歴や立候補の動機などに時間を割いていることがある。

 候補が言及しない一方、応援演説した地元選出の松江市議は「原発反対の人を国会議員にするわけにはいかない。鹿島町民は許してはいけない」と主張。ただ、交付金などで地元が恩恵を受ける半面、原発にはリスクもあることから、見守っていた70代男性は「いらんことを言うんじゃないと思った」と下を向いた。別の70代男性も「話をすれば有権者が逃げるかもしれない」とつぶやき、錦織候補の演説に理解を示した。

 21年衆院選に比べて論戦は一変している。再稼働是非を巡る地元判断が求められた時期と重なり、与野党候補が真っ向から対立。自民候補だった細田博之前衆院議長は早期再稼働を主張し、今回の補選に立候補した亀井亜紀子候補(58)は住民投票で民意に判断を委ねるべきだと訴え、舌戦を繰り広げた。

 補選は錦織候補だけでなく、亀井候補も街頭演説で言及していない。

 かつて13年参院選島根選挙区に脱原発を掲げた政党「みどりの風」(当時)から立候補した亀井候補。立民公認だった17年衆院選では「原発をなくす橋渡し役になりたい」と踏み込んだが、補選は能登半島地震を背景に複合災害を想定した避難計画の見直しが必要との認識で再稼働の是非を明確にしていない。

 理由は、最大の支援組織・連合島根の傘下に山陰電力総連など原発推進を求める組合と、自治労を中心に脱原発の考えを持つ組合があるためだ。陣営関係者は「候補の考えだけで踏み込めない事情がある」と説明する。告示日の16日に応援に入った社民党の服部良一幹事長は「打倒自民」が最大の狙いだけに理解した上で、反原発票の獲得に向けては「みどりの風に所属していた過去があるから大丈夫だ」との見方を示した。

 東京電力福島第1原発事故から12年後、岸田政権は原子力政策を大きく転換し、脱炭素と電力安定供給を旗印に再稼働促進や60年超の運転を容認。「エネルギー基本計画」の改定も見込まれ、原発依存度の低減を明記した現行計画を見直すかどうかが焦点になる。

 市民団体「島根原発2号機の再稼働延期の請願をすすめる会」は告示前、両陣営に再稼働への見解を明らかにするよう求めたが、現時点で回答はないという。秋重幸邦共同代表(70)は「能登半島地震で住民の不安の声は高まっている。どう考えているか、演説でも取り上げてもらいたい」と求めた。

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