退職金ゼロ公約で初当選の川勝知事「退職金は1億2千万、累計4億」…習近平との蜜月と「命の水を守れ」プロパガンダ

混迷を極めるリニア中央新幹線静岡工区だが、静岡県知事の川勝平太氏がついに辞職を決めた。元プレジデント編集長で作家の小倉健一氏が解説するーー。

川勝知事「富士山連合で東京を包囲する」

リニア中央新幹線について、JR東海が2027年の開業を断念したことを受け、「大きな区切りを迎えた」と自慢げに知事の座を去るのが川勝平太氏だ。残り1年ほどの任期を残して辞職を決断した。

牧之原市の杉本基久雄市長は「(リニア中央新幹線を)潰すつもりでやっていたんですか?と。大問題だと思う。国家プロジェクトであるし、国も3.5兆円(正しくは3兆円)の財政投融資をしている中で、それを7年止めたとなると僕は犯罪じゃないかと思う。それくらい大きな問題」「会って話を聞いた僕の感想は、やっぱり止めるためにやっていたのだと。口では言わないけれど、そう取れる発言だった」と厳しく川勝知事を批判をしている。

週刊文春電子版(4月10日)では、川勝氏の手法に迫っている。

<12年、「人民日報海外版」のインタビューを受け、「20歳の頃に『毛沢東選集』に興味を持ちました。そこで毛沢東の『農村が都市を包囲する』という理論を応用して、『富士山連合』をつくって東京を包囲するという構想が生まれたのです」といった主旨のことを語っている(要約、同記事の取材内容が事実かどうか川勝氏に尋ねたが無回答)>

「それは毛沢東思想の応用ですか」「そのとおりです」

文春記事では、無回答となっているが、実は同趣旨の話を川勝氏は自身の著書『日本の理想ふじのくに』(春秋社)で、このようなことを語っている。

〈私の学生時代は、中国の国家主席は毛沢東で、中国では文化大革命の最中であり、私は『毛沢東選集』などを読んで、その思想を知っていました。毛沢東は戦前期に「革命農村をもって都市を包囲する」という戦略を立てました。(中略)毛沢東は革命の主力を農民に据え、農民が都市ブルジョアジーを打倒するという現実路線をとって中華人民共和国の建国に導いたのです〉

現在の習近平は、中国における歴史的指導者として、毛沢東に並びたいという意欲を隠していない。川勝氏は、以上のようなことを念頭に、こう続ける。〈「(習近平に)富士山連合をもって首都圏を包囲する考えです」と言ったのです。「それは毛沢東思想の応用ですか」と問われたので、「そのとおりです」と答えたので、中国の要人は顔が一気にほころび喜んでいました。(中略)日本には現代中国の指導者となった毛沢東の思想や鄧小平の政策から学んで応用できるものがあります〉

川勝が掲げる「命の水を守れ」というプロパガンダ

毛沢東は、世界屈指の強国となった中華人民共和国の生みの親である。ヒトラーやスターリンと並ぶ大量虐殺者でもあり、一般的な歴史家の評価はすこぶる悪い。レーニン主義者である毛沢東は、ソ連を参考にしながら国づくりに励んでいる。1930年ごろ、国民党からの大弾圧を受けた毛沢東は、中国の南西部にある井岡山(せいこうざん)にこもり、農村部の赤化(土地の再配分)を進めていた。中央政府の影響を受けづらい地方の農村をひとつひとつ共産党の支配下に変えていったのだ。

この手法は、川勝がリニア工事によって減るかもしれない大井川の水量を「命の水」と主張し、大井川流域の農村を煽り続けた方法論によく似ている。大井川流域の農村も、過去に干ばつや洪水に悩まされた歴史が潜在意識に深く刻まれており、川勝が掲げる「命の水を守れ」というプロパガンダに騙されてしまったのだ。リニアへの嫌がらせの目的として、静岡県にメリットがない、新駅がほしかったのだという人がいるが、下記の東海道新幹線の各駅の乗客数をみてほしい。

そもそも静岡県内の新幹線駅を存続させる意味はあるのか

1日の平均乗車人員(2018年度・コロナ前)

東京:104,451人

品川:37,200人

新横浜:34,095人

小田原:11,245人

熱海:4,825人

三島:15,319人

新富士:4,874人

静岡:21,207人

掛川:4,379人

浜松:13,731人

豊橋:8,934人

三河安城:1,865人

名古屋:73,747人

岐阜羽島:2,955人

米原:7,240人

京都:39,229人

新大阪:84,467人

この1日の乗車人員(2倍にすると乗降人員になる)を考えると、三島と静岡以外、JR東海にとって駅を存続させるメリットは薄そうだ。この数字を見る限り、JR東海が経営の観点からやるべきは、静岡空港に駅をつくることではない。静岡県の新幹線駅を減らすことだろう。同様に、長野県知事が1時間に数本、長野にできるリニア新駅に停車せよと主張しているが、はっきりいって1日数本で十分だ。

行政はたかり屋なのか

行政はたかり屋ではないのだから、民間企業の邪魔をするのはやめるべきだ。長野県知事まで川勝化するのでは日本経済のお先は真っ暗だ。地道に長野経済が発展すれば停車本数は増えるのだから、長野県知事がまずやるべきは地域経済の発展だ。

すでにJR東海は、工事用車両の通行の安全確保と地域振興のために、大井川の中流域に位置する井川地区と静岡市街地を結ぶ道路の一つである南アルプス公園線約4.7キロの「県道トンネル」建設費用140億円を負担することにしている。本来であれば、地域振興の恩恵を受ける静岡県や静岡市が半分負担すべきだが、JR東海が譲歩して全額を負担することになった。

静岡県からは、リニアによるメリットがない、と主張する声が聞こえるが、南アルプスへのアクセスが改善されることで、観光客の増加などが見込め、交通アクセスの悪い過疎地域もリニア建設によって発展するのではないだろうか。

給与・ボーナス返上の意向を示しておきながら、放置していた

つくづく学者が知事になるというのは、いい面、悪い面があると思い知らされた次第だ。学者や政治家は偉そうにさえしていれば、周囲が忖度(そんたく)をしてくれる職業なのだろう。

静岡にメリットのある事業の足を引っ張り続けたわけで、これが「静岡県民のことを考えていた」と言えるのだろうか。

川勝氏が、かつて「(御殿場市は)コシヒカリしかない、だから飯だけ食って、それで農業だと思っている」と決めつけ、大いに県民の反感を買ったことに対して、給与・ボーナス返上の意向を示しておきながら、放置していた問題で、県議会は、2023年10月15日、知事が出したおよそ440万円を返上するための給与減額の条例案を可決した。

しかし、川勝知事の給与・ボーナスを巡っては、まだ果たされていていない公約がある。

退職金ゼロ公約で当選したのに退職金1億円突破とは、違和感しか覚えない

2009年の知事選で川勝知事は「退職金ゼロ」を公約にしていたものの、<知事の退職金を支給しない条例をつくり、受け取らなかった。2期目は『受け取ることが望ましい』との県審議会の答申に従い受け取っている>(中日新聞)。3期目と併せて、合計8100万円の退職金をすでにもらっている。辞任でも同等の計算で退職金は算出されることとなり、退職金の総額は1億円を超える。先の週刊文春電子版(4月10日)にも、<一方、軋轢を生みながら長期政権で莫大な富を得た。年間2000万円前後の給与・ボーナスと、約4000万円の退職金が3度。任期途中の辞任であることを勘案しても、川勝氏は累計で4億円近くをせしめることになりそうだ>と算出されている。いくらなんでも退職金ゼロが1億円突破とは、違和感しか覚えないのは、私だけではないだろう。

それにしてもここまで国民から嫌われた川勝氏は、鳩山由紀夫氏、舛添要一氏と並ぶ「実力」を持っている。退職後は、自身の県政を振り返る書籍をつくりたいようだが、逆偉人伝として、貴重な歴史資料となることは間違いない。この炎上商法(炎上を利用して儲けるビジネス)に加担する出版社がどこなのか興味深く見守っていきたい。

さて、国民の関心は、次の知事が誰なのかということになりそうだ。とにかく、「知事就任から何日で、リニア建設にGOサインを出すか」が争点だ。

川勝知事はリニア推進派だと言い続けてきた

川勝氏も、驚くべきことに、リニア推進派だ言い続けてきた。知事候補が「私はリニア推進派」だといっても、疑いをかけざるを得ない。

候補者が「私はリニア推進派だ」というのなら、「建設許可を◯月までに出す」「3か月以内で議論を終わらせる」などの、具体的な日付を選挙戦を通して、候補者に決めさせる必要がある。もうリニア工事の建設については、十分な科学的な議論がなされている。知事就任初日にGOサインは出せるはずだ。

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