北畠顕家(4月20日)

 さぞ、りりしかったのだろう。花将軍の異名を持ち、かつての大河ドラマでは後藤久美子さんが演じた。南北朝時代の動乱を生きた武将北畠顕家。伊達市の霊山に国府を置いた▼21歳で悲壮な最期を遂げた。討ち死にする7日前、陣中で起草したとされる天皇への意見書には先見の明がある。第一に掲げたのは地域振興だった。西や東に拠点を置き、地方政治を充実させることが国を強くすると訴えた。戦乱に疲れた民からの徴税を免じ、権力者はぜいたくを慎むべきだとも主張した(大島延次郎著「北畠顕家」)▼小学館漫画賞を今年受けた「逃げ上手の若君」では主人公とともに戦う姿が描かれ、改めて脚光を浴びている。無念の死から700年ほどがたつ。地方と民の暮らしを豊かにする政治は実現したか。範を示すべき政治家は保身に汲々[きゅうきゅう]としているように映る。気のせいではないだろう。理想は夢のまた夢なのか▼北畠一門をまつる霊山神社で今年も29日、春季例祭が営まれ、伝統の「濫觴[らんじょう]の舞」が奉納される。顕家が霊山城に入った際、住民が武運長久を願ったのが始まりとされる抜刀舞踊だ。花将軍の教えを宿し、天空にかざされる太刀に国づくりの今昔を重ね見る。<2024.4・20>

© 株式会社福島民報社