生物多様性の“レース”? F1元世界チャンピオンが仕掛ける「昆虫ホテル」が岡山に

生物多様性の保全は地球環境だけでなく、経済活動にとっても非常に重要な役割がある。あらゆる事業活動は、生物多様性による自然の恵みに依存して成り立っているといっても過言ではないからだ。すべての事業者が日常的に使用している紙一枚を見てみても、自然から供給されているものであり、木が失われればコピー用紙一枚すら作ることが困難になるだろう。実際、世界のGDP総額の約55%以上が自然生態系に依存して生み出されているといわれている。ところが、世界145カ国が加盟する政府間組織「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム」(IPBES)の調査報告によると、現在、人間の活動が原因で100万種もの生物が絶滅の危機に瀕しており、これらの環境破壊が世界に与える損失は年間2兆〜5兆ドルにも上るという。

絶滅の危機にさらされているのは、大型の動植物や珍しい生物だけではない。例えば、無数に存在しているように思える昆虫たちも、環境破壊や地球温暖化で生息環境が急速に失われていることによって、半数近い昆虫種が減少傾向にあるという。植物の受粉を担い、動物の排泄物や死骸を分解してくれる昆虫がいなくなれば、森は失われ、水は枯れ、砂漠が広がることになるだろう。一度絶滅してしまうと、二度と取り戻すことはできない。致命的な崩壊が始まる前に、一刻も早く食い止める必要がある。そのためにはまず、生物多様性への関心をもっと高めることが重要だ。

 そんな中、生物多様性の大切さに気付いた著名人たちも、啓発活動に乗り出している。

 例えば、2010年~2013年に4度のF1世界チャンピオンに輝いた、セバスチャン・ベッテル氏もその一人だ。ベッテル氏は、生物多様性への関心を高めることを目的に、「Buzzin’ Corner」プロジェクトを2023年9月に立ち上げている。

 「buzz」という単語は日本語の「ブンブン」と同じで蜂の羽音を表す言葉だが、それ以外にも日本でも「バズる」でおなじみの、「ざわめき」という意味もある。ベッテル氏曰く「生物多様性に関する“レース”」というこの「Buzzin’ Corner」プロジェクトは、蜂などの昆虫の新しい生息地となる昆虫用のホテルをサーキットのコーナーに設置することで、生物多様性の損失に対する認知を高めようとする活動だ。鈴鹿サーキットに設置された11基の昆虫ホテル(Bee Hotel)を皮切りに、他のサーキットでも同様の活動を広めていくとしている。

 また、F1のファンだけでなく、より多くの人に知ってもらい、生物多様性について研究できるようにするため、ベッテル氏は国際環境NGOグリーンピースを通して昆虫ホテルの寄贈先を探していた。そして今年3月、岡山県苫田郡の「山田養蜂場」に鈴鹿サーキットにある11基の内の8基が寄贈され、同社のグループ会社である「山田みつばち農園」に設置された。同社は養蜂業を営みながら、これまで植樹などの自然環境保護活動を積極的に行ってきたことでも知られている。

 ミツバチは昆虫の中でも特に多くの植物の受粉に関わり、農作物作りに貢献する生物だ。また、ミツバチ自身も環境指標生物であり、ミツバチが生息していることは良好な自然環境の証拠でもある。ベッテル氏のBuzzin’ Cornerプロジェクトや、山田養蜂場のような活動がバズって、環境保全の意識が高まることを期待したい。(編集担当:藤原伊織)

生物多様性の保全は地球環境だけでなく、経済活動にとっても非常に重要な役割がある

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