ボクシングの試合で選手が死亡…危険ともなう「格闘技」で罪に問われないのはなぜ?

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スポーツは様々な競技があり、一般に広く親しまれていますが、プロレベルになると危険を伴う場面も少なくありません。特に相手を殴る、蹴る、投げるなどの格闘技は常に身体へのダメージに晒されています。

死亡事故につながるケースもあります。2023年12月におこなわれたボクシングのタイトル戦後に意識を失い、緊急開頭手術を受けた穴口一輝選手(23)は、意識が戻らないまま2024年2月2日に亡くなりました。

ボクシングである以上、死傷事故の発生を完全に避けることは困難でしょうが、試合中に相手を死傷させて罪に問われたという話は聞きません。なぜなのでしょうか。坂口靖弁護士に聞きました。

●厳格なルールに従った殴り合いのみが「適法」

──前提として、殴る行為、殴って死亡させる行為は何罪に当たるのでしょうか。

形式的には、殴る行為は、暴行罪(刑法208条)、それによって怪我をさせてしまった場合には傷害罪(刑法204条)、殴って死亡させる行為は傷害致死罪(205条)が成立する可能性があります。

──ボクシングの試合で死傷事故が発生しても選手が罪に問われないのはなぜでしょうか。

ボクシングの試合は、レフェリーやジャッジ、ドクター等が配置され、厳格なルールも設けられており、試合に参加する者はボクシングのルールの範囲にある殴打行為を受けるということを了承した(危険を引き受けた)上で実施されるというスポーツです。

正当業務行為(刑法35条)として、違法性が無く、原則として犯罪は成立しないものと考えられています。

──ボクシングの試合といえども、罪に問われるようなことはあるのでしょうか。

あくまで厳格に設けられたルールの範囲内において実行される殴打行為は、危険の引き受けもあり、正当業務行為と評価され違法性が認められないというものです。

ルールを無視した行為がなされた場合には、正当業務行為とは評価できず、違法性が認められ、暴行罪や傷害罪、傷害致死罪が成立する可能性があります。

したがって、ルール違反となるローブローやラビットパンチ(後頭部への打撃)、レフェリーが制止している間の攻撃等を故意に実行しているというような場合には、前述の各罪の責任を問われる可能性があります。

穴口選手の試合は、私もテレビで観戦していました。本当に激闘であり、クリーンなルールの範囲内の試合でしたので、相手の堤選手が罪に問われるという可能性は皆無であるものと考えられます。穴口選手のご冥福を心からお祈りいたします。

【取材協力弁護士】
坂口 靖(さかぐち・やすし)弁護士
大学を卒業後、東京FM「やまだひさしのラジアンリミテッド」等のラジオ番組制作業務に従事。その後、28歳の時に突如弁護士を志し、全くの初学者から3年の期間を経て旧司法試験に合格。弁護士となった後、1年目から年間100件を超える刑事事件の弁護を担当。以後弁護士としての数多くの刑事事件に携わり、現在に至る。YouTube「弁護士坂口靖ちゃんねる」 <https://www.youtube.com/channel/UC0Bjqcnpn5ANmDlijqmxYBA> も更新中。
事務所名:プロスペクト法律事務所
事務所URL:https://prospect-japan.law/

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