満18歳までの〈育児コスト〉上海市は2,000万円超え…31歳の新米パパ、思わず「責任感より不安感のほうが大きいですね」と苦笑い【現地駐在員がリポート】

(※写真はイメージです/PIXTA)

中国では2015年末に「一人っ子政策」が廃止されてから約10年経ったいまも、出生率低下に歯止めがかかりません。その理由に「高すぎる育児コスト」があります。複数のデータをもとに、中国の「結婚・子育て」の現状をみていきましょう。現地に住む東洋証券上海駐在員事務所の奥山要一郎所長がリポートします。

新米パパが苦笑い…中国で問題視される「育児コスト」上昇

「責任感より不安感のほうが大きいですね」――。浙江省の中規模都市に住む新米パパが苦笑しながら語ってくれた。

地元出身の男性31歳。同年代の女性と昨年お見合い結婚し、今年2月に第一子が生まれたばかり。先日、出産祝いに行ったところ、思わぬ苦悩の声を聞いた。

中国では近年、育児コストの高さが問題視されている。「中国生育成本報告2024版」によると、中国の0~17歳まで(満18歳までと同義)の育児コストは平均53万8,312元(約1,130万円)。1人当たり国内総生産(GDP)の6.3倍に達する。豪州の2.08倍、フランスの2.24倍、米国の4.11倍、日本の4.26倍などを大きく上回り、ほぼ世界最高水準だ。

中国の育児コストは地域により大きく異なる。上海市は101万130元(約2,121万円)、北京市は93万6,375元(約1,966万円)など都市部で高い傾向にあるが、青海省は37万8,670元(約795万円)、チベット自治区は34万8,505元(約731万円)にとどまる。教育レベルや生活環境などの差が背景にあるようだ。

子が18歳になるまで、「月収の約4割」が育児費用に

数字の話ばかりで恐縮だが、冒頭の知人が住む浙江省の育児コストは85万4,942元(約1,795万円)で、上海、北京に次ぐ全国第3位。これは大きな家計負担だ。

彼は「専科(2~3年の短期大学)卒だから、高給取りにはなれない」と嘆く。数ヵ月後に復職予定の奥さん分と合わせると、世帯所得は1万元程度らしい。

昇給や物価変動などを考慮せずに単純計算すると、子どもが18歳になるまで月収の約4割が育児向けに費やされる。

幸運なことは、彼ら夫妻が住む2LDKのマンションは親から譲り受けたもので、住宅ローンの心配がないこと。マイカーも買ってもらったもの。それでも生活に余裕があるわけではないという。

結婚・出産は「コスパが悪い」?

中国では「結婚や出産(育児)はコストパフォーマンスが悪い」という声を時々聞く。人生の大事を「コスパ」の一言で片付けるのはいかがと思うが、それだけ負担が大きいことも事実だ。前述の育児コストを大学本科卒業まで拡大すると68万312元(約1,428万円)に膨らむ。

中国の2023年の出生数は前年比5.6%減の902万人だった。直近ピークの1,883万人(16年)からわずか7年で半減したことになる。

一方、23年の婚姻数は768万組で、14年から続いていた前年割れはいったんストップ。もっとも、新型コロナ禍の反動もあると見られ、今後は不透明だ。

中国で婚姻数が減っている「3つ」の要因

前述の「報告」は、婚姻数が減少傾向にある理由として以下の3点を挙げる。

①若年人口の減少、②結婚コスト増、仕事上の大きなプレッシャー、女性の教育水準や経済的独立レベルの大幅上昇など、③男女人口比の不均衡(結婚適齢期の20~40歳では男性が女性より1,752万人多い)――。

社会的および文化的観念などから婚外子が避けられる、つまり「結婚してから子どもを産む」のが一般的な中国では、婚姻数の増減が新生児の数と密接に関係してくる。

[図表]中国の婚姻数と出生数

知人夫妻に「結婚して子どもも生まれたばかりだから、これからの生活もますます頑張らなきゃね!」と声を掛けたが、返してくる笑顔にやや力がない。

奥さんは4人姉妹なので、自身も賑やかな家庭がいいと思いきや、「子どもは1人で十分ですね……」と言う。これが現実的な声なのだろうか。

奥山 要一郎

東洋証券株式会社

上海駐在員事務所 所長

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