恐怖!都内高級タワマン内部に住みついた〈小さないきもの〉…「まずはゴミ置き場から見てみましょうか?」管理組合理事長が目撃した、まさかの光景

(※写真はイメージです/PIXTA)

「富裕層の砦」とも称されるタワーマンション(タワマン)だが、意外にもその内側ではトホホなトラブルが珍しくない。矢面に立たされるのはいつも「管理組合の理事長」。悲しいかな、住人たちの無邪気なお願いや一触即発のクレーム対応に駆けずり回り、気づけば今日も日が暮れている…。本記事では、あるタワマン管理組合理事長の活動から、タワマン生活の実情に迫る。

酔っぱらいサラリーマン住民がギョッとした、あり得ない侵入者

都内一等地にそびえるあるタワマン。午前1時過ぎ、ここの住人で、金融機関勤務のAさんは、接待に疲れ果て、よろめきながらエントランスへとたどり着いた。

オートロックを開錠し、広いロビーの奥のエレベーターで自宅階へ。カゴの壁面に力なくもたれかかったAさんだが、ふと違和感を感じて顔を上げた。エレベータ内にかすかに漂う、酒やタバコの類ではない、なんだか不快な臭い。だが、どこかで嗅いだことがあるような…。

エレベーターを降りると、視界の端に小さな黒い影をとらえた。

「えっ…!?」

思わす目を凝らすと、ほんの数メートル先に、丸い小さな黒いものがたたずみ、こちらを見ていた。飲食店でのアルバイト経験があるAさんは息をのんだ。

「ネズミだ!」

小さな影は壁際を沿うようにして走り、あっという間に暗がりへと消えた。

「理事長ォ~!!!」

Aさんの絶叫が、夜のタワマンにこだました。

「まずはゴミ置き場から見てみましょうか」

翌土曜日早朝、Aさんの要請を受けたタワマン理事長・T氏は調査を開始した。

このタワマンのエントランスはオートロックでシャットアウトされ、しかも建物内通路はすべて内廊下仕様となっている。つまり、人間はもちろん、動物であっても外部からの侵入が厳しい“難攻不落”のタワマンなのだ。ネズミごときが入り込む余地などないはずだが、一体どこから、どのように侵入したのか。

「まずはゴミ置き場から見てみましょうか」

寝不足で半分屍のようになっている副理事長を伴い、T氏はごみ置き場へと向かう。T氏は、ごみ置き場に積まれたごみを、どこからか見つけてきた長い棒でつついてみた。

「ガサガサガサガサ」

「いたぞ! ネズミだ!」

袋の陰から黒い小さな生き物がもがくように飛び出し、奥の方へ姿を消す。

「なんという急展開…」

やつれた顔の副理事長は呆然と立ちつくす。

ネズミは学習能力が高く、わずかな隙間・瞬間を計ってゴミ置き場に入り込むが、人の往来が多い日中は危険を察してゴミ置場に身を潜め、深夜になるとエサを求めて建物内で活動を始める。

T氏は念のため、出入りのゴミ処理業者にも聞き取りをすることにした。

すると「そういえば、ごみを動かしたら、何か影のようなものが横切った気がした」という話を皮切りに「ごみ箱のふたを開けたら、ネズミが勢いよく飛び出した」「何匹か見かけた。おそらく親子連れだ」など、複数の証言が出て、T氏は呆然。

あわてて鉄網状の捕獲器や粘着シートなど、思いつく限りの道具をそろえ、捕獲・駆除を試みた。だが、数日かけて1匹捕れるかどうかといった程度で、とても効果的とは思えなかった。

エサがない場所に、なぜネズミが?

素人では対処不可能と考えたT氏は、害獣駆除業者へ調査を依頼した。

侵入先を特定する調査を開始して間もなく、壁内部に敷かれているライフライン配管の隙間に痕跡が見つかった。

「ここか…」

業者はすぐに手当てをして、隙間をふさいだ。

ネズミは下層階のみならず、上層階にも侵入してくる。なかでも壁面緑化を施している建物の場合は、植栽を伝い、かなりの高層階の屋上まで登ってきた事例もある。

実は、T氏が即座にネズミ見つけたゴミ置場には、ネズミのエサになる生ゴミはほとんどない。タワマンの場合、生ゴミは各住戸のディスポーザーで粉砕処理されており、その他の燃えるゴミは圧縮機にかけるので、そこにネズミが入ることは考えられないのだ。

エサがない場所なのに、なぜネズミが入ってくるのだろうか?

「おそらく、ペットボトルに残っているジュース類ですね」

駆除業者はT氏の疑問に答えた。ゴミ置き場に置かれているのは、ペットボトルなどのリサイクルゴミである。

住民には日頃から、ペットボトルの飲料は飲み残さずに、容器はすすいで捨てるように依頼しているが、それでもわずかに残る液体を狙って、ペットボトルを食い破るのだ。

火災に感染症…住民を恐怖に陥れるシナリオ

ネズミはその小さな身体と裏腹に、災害の引き金にもなる恐ろしい生き物だ。

住宅の天井裏に入って電気配線をかじれば配線がショートし、火災の原因になる。タワマンの低層階でこの事象が発生すれば、火は瞬く間に上層階へ達し、大惨事となってしまうだろう。

恐ろしいのは火災だけではない。ネズミの排泄物には感染症の原因となる細菌が含まれており、タワマン内でネズミが大量発生すれば、病原菌がばら撒かれ「タワマン内パンデミック」が発生してしまうかもしれない。

駆除完了といわれても「どこかにいる気がする…」

害獣駆除業者から提案された「最終兵器」は、ネズミ撃退用の超音波装置だった。これを建物内のネズミが出現しそうな複数カ所に設置すると、ネズミは装置が発信する超音波に耐えられず、逃げ出すという。

業者がうやうやしく持ち出した装置は、特徴のない箱だった。

「ここから、人間には聞こえないけれども、ネズミが嫌う超音波が発信されているのです」

胸を張る業者に、T氏と副理事長は「はあ…」と気の抜けた返事をして、足元の箱を見下ろした。

幸いなことに、装置設置後、清掃業者からのネズミ目撃情報はなくなった。だがT氏は、いまひとつ「駆除された」という実感が持てないままだった。姿は見えなくなったものの、巧みに隠れているだけで、完全に駆除されていないのではないか。そんな思いがぬぐえない。

「鼠算式」との言葉があるように、ネズミの繁殖力はすさまじい。もし、まだどこかに潜んでいるとしたら…。

「いやいや」

T氏は頭を振った。

「できることは全部やったじゃないか」

T氏は自分自身を納得させるかのようにつぶやいた。

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