「たまには入れ食い!」里の渓流でカゲロウたちの宴、桜を散りばめたようなアマゴたちが踊り出た

桜の季節がよく似合うアマゴの姿に春を実感(撮影:杉村航)

ようやく水ゆるむ季節になってきました。3月が記録的に寒かったせいでしょうか。今年の春は、ほとんどスギ花粉に悩まされずにロッドを振ることができたのですが、その分釣果もふるいませんでした。信州、長野県の里でも桜が満開となっています。春爛漫の里川での釣り、さらに山奥の渓での釣りもそろそろ楽しめる時期です。県内でも雪代の影響が少ない南部へとフライロッドを手に出かけてきました。

■心ときめく! 花盛りの伊那谷へ

道中で撮った飯島町、藤巻川の桜。奥には宝剣岳と千畳敷カールが見えています

今回の釣行は長野県南部、県内では南信地方と呼ばれるエリアです。伊那谷を流れる天竜川を挟み、東側に南アルプス、西には中央アルプスが聳えています。雪解け水が流れる中央アルプス側の渓へと向かいました。

車を運転していると見頃を迎えた桜や桃、花桃、足元には菜の花、水仙、チューリップ……。次から次へと出会う花盛りの景色に目移りしてしまい、心はすっかり花見気分です。見慣れた里の風景が一気に華やぎ、非日常の空間となった様子に浮き足立つのを抑えきれません。春は心ときめく季節ですね。

■釣果は足で稼ぐ! 山地渓流でもドライフライの季節へ

山道を歩くこと3時間あまり、昼前に到着したこの日の入渓点の標高は約1,400m地点です。気温はこの高さでもすでに17℃、水温は8.6℃で、長時間歩いたせいか汗ばみ、日陰が恋しいくらいです。美しい容姿のカケスが枝に留まっていました。「あの羽、どうにか手に入らないかな」 そんなことを思ってしまうフライフィッシャーはきっと多いはず。視線に気付いたのか、彼(彼女?)は「ギェ〜」と姿に似合わないダミ声で飛び去っていきました。

岩と水の流れが作り出す渓の造形美。光の加減で変化し続ける様に視線を奪われます

まずはしばらく川の様子を観察します。ユスリカが飛んでいますが、本当にわずかです。滔々と流れる水はどこまでも透明で、喉が渇いていたせいでしょう、とても美味しそうに見えてしまいました。

おそらく、イワナたちはまだ活性が高くはないでしょう、素早い捕食は期待できません。高低差が大きい岩がちな山地渓流。流れの中は複雑です。沈めたフライを程よいテンションに保つのが難しく、わずかなアタリがあるのみで、フライを咥えるのを諦めて流れの奥に戻っていく魚影を見るのみです。この様子だと“向こう合わせ”という訳にもいかなそうです。

正午を過ぎると、日陰に浮き上がるようにコカゲロウやストーンフライ、小さな(フックサイズ#18〜16程度)虫たちが飛び交い出しました。それに乗じてドライフライ(水面に浮く毛ばり)に変えてみました。すると、驚くほど素直にイワナたちが飛び出してくれました!

しかし、激しく白泡が立つ落ち込み、わずかな弛み、狭く流れの緩急の差が激しいポイントが続き、フライを目で追うのには相当な集中力が要求されます。ドラグ回避のラインのメンディング(修正作業)も忙しいです。そこが醍醐味でもあるのですが、最初の頃の喜びはどこへやら、徐々に疲れてきました。

試しに大きめ(フックサイズ#10)のフライ、見た目も目立つパターンに変えて流してみると……。暗い岩陰からすごい勢いでイワナが飛び出しました。さすが、山奥のイワナは貪欲ですね。

そして登った分だけ歩いて下山です。水を吸ったブーツは重いですが、気持ちのいい釣りができたので足取りは軽く、あっという間に麓に着きました。しかし、久しぶりにずいぶんと歩いたせいもあるのでしょう。夕食を食べている途中から眠気に襲われ、そのまま倒れ込むように寝入ってしまいました。

■里の渓流でカゲロウたちの宴! 桜を散りばめたようなアマゴたちが踊り出る

前日の釣行の疲労からか、翌朝は寝返りを打つのも億劫なほどの腰痛で、すっかり気を削がれました。そんな訳でゆっくり目のスタート。桜を眺めつつ、のんびりとした釣りができそうな里川に向かいました。

朝9時の気温はすでに19℃で水温は8.2℃。流れにはライズもなく、フライを沈めて探っていきますが、しばらくは魚たちの反応がまるでありませんでした。少しずつ釣り上がり、次のポイントに目を移した瞬間、魚影らしきものが視界を掠めたような……。幻影かとも思ったのですが、しばらく眺めているとライズ(水面付近での捕食行動の表れ)している!

次から次へと数を増やしていくシリナガマダラカゲロウたちのスーパーハッチ

10時を過ぎ、水温は11℃とまさに絶好のコンディションです。シリナガマダラカゲロウたちがチラチラと水面を飛び交い出したのを確認すると、見逃しそうなほど控えめですが、断続的にライズが起きていました。やがてカゲロウたちはまとまった群れのような数になり、ライズもどんどん気前よくなっていきます。

比較的シンプルな流れ込みだったので、あまり悩まずにフライを漂わせると、これまた気前よく魚たちが水面を割ってくれました。アマゴです。パーマークがくっきりした小型のものもいれば、大きめのアマゴは銀色に魚体が輝いています。体側に散りばめられた鮮やか朱点は桜の花びらのようで、見入ってしまう美しさ。アマゴにこそサクラマスという名が相応しいような(実際はサツキマス)気がしてきました。

滅多にない入れ食い状態にすっかり夢中で釣りを続けました。実は釣りをしながら薄々気づいてはいたのですが、釣り終わる頃にはブヨに何箇所も噛まれていました。なんだかすぐに夏が来そうですね。次回からは虫除けとポイズンリムーバーを忘れずに携行します!

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