赤十字アフリカ局長「死体を積み上げることが勝利ではない」 スーダン内戦1年

スーダンの内戦から逃れ、荷物を抱えて難民向けトランジットセンターに到着するスーダン人の家族(2月14日撮影、南スーダン・レンク) (AFP/AFP or licensors)

スーダンで武力衝突が始まってから1年が経過し、国民の半数が人道支援を必要としている。赤十字国際委員会(ICRC)アフリカ局長のパトリック・ユーセフ氏は、紛争法の順守と支援を呼び掛ける。 ※SWI swissinfo.chでは配信した記事を定期的にメールでお届けするニュースレターを発行しています。政治・経済・文化などの分野別や、「今週のトップ記事」のまとめなど、ご関心に応じてご購読いただけます。登録(無料)はこちらから。 スーダンではこの1年間、国軍と準軍事組織・即応支援部隊(RSF)による凄惨な内戦が続いている。戦闘による死者は数万人に上り、およそ600万人が避難を余儀なくされ、その大多数は国内にとどまっている。 世界の注目がパレスチナ自治区ガザとウクライナへと集まる中、スーダンでは人口の半数に当たる約2400万人が人道支援を必要としている。ICRCのユーセフ氏は、現地を訪れた数少ないリーダーの一人だ。本部を構えるジュネーブを拠点に、国際人道法の順守と支援を訴えている。 swissinfo.ch:昨年11月にスーダンから帰国した際、あなたは同国の人道状況の悪化について警鐘を鳴らしていた。それ以来、状況は変わったか? パトリック・ユーセフ:状況は悪化の一途をたどっている。われわれは首都ハルツーム周辺のジャジーラ州(中東部)と同国西部のダルフールにおける、国軍とRSFによる戦闘地域を何回か訪れた。 戦闘が開始してから1年となり、スーダンはアフリカだけではなく世界全体でみても、最も深刻な人道危機に直面している国の一つだ。こうした現状にもかかわらず、残念ながらそれほどの関心を寄せられていない。 最も深刻な危機、というのは? 人口4800万人のうち、600万人もの人々が国内避難民となっている。私の見解では、この統計は実際の数よりも少ない。政府機関や人道支援団体は国の隅々にまで設置されているわけではないので、全員までは把握していないと考える。 さらに国外に逃れた200万人もの難民と、数万人もの死傷者もカウントする必要がある。他にも逮捕されたり、行方不明となったり、家族と引き離された人もいる。 食糧も簡単に入手できない。医療システムは崩壊している。これらは内戦による深刻な人的被害の一例に過ぎない。 前回の滞在で脳裏に焼き付いた光景はあるか? ハルツームへの道中で、休憩のためにワドメダニの街に立ち寄った。子ども2人が近付いてきたので、外で何をしているのかを聞いた。だがその子たちの返答は、私が恐れていたことを確定的にした。大多数の子どもは学校へ行っていないのだ。スーダンの学校の大半は国内避難民を受け入れる施設として利用され、近隣諸国においても、教育を受けることはあらゆる世代にとって難しくなっている。 スーダンの人々が必要としているものは? 人的被害は拡大し、スーダンの人々は交渉や停戦以前に、食糧支援や医療用物資の支援を早急に必要としている。もっとシンプルな支援だ。弱い立場に置かれている人々にとっては、人道支援団体の存在も心強い。だが現地の複雑な状況と安全面を考慮に入れると、残念ながら現時点では実現不可能だ。 アクセスは依然として困難だ。 今回の人道支援は私がICRCで経験したなかで最低だ。19年間、中東やアフリカ諸国を行き来したが、安全なアクセスを確保できずに人道支援できないケースはほとんどなかった。 もし現在、東部ポートスーダンからハルツームへ輸送する場合、例えルートが以前より安全になったとしても、確実に目的地に着くことはできない。通行不能な区間の存在と治安の悪さから、首都ハルツームと周辺地域、ダルフールへのアクセスは不可能だろう。 目下、人々の関心はガザとウクライナに寄せられている。一方、国連が人道的対応に必要とする資金は27億ドルに上るが、うち6%しか資金調達されていない。さらに資金が必要なのでは? これは基本的な要素だ。資金がなければ、人道支援団体はプロジェクトの立ち上げができない。われわれはばらまきの援助を行うのではない。このような規模の危機が起きた際は、地元当局と連携しながら効率的かつ費用をかけずに援助を実施するためのシステムの構築が必要だ。残念ながらこうしたものは存在していない。 現在も進行中の紛争をみると、国際人道法はますます軽視されている印象を受ける。スーダンでも同様の事態か。 スーダンでは人道法が順守されず、人々はひどく苦しみ、あらゆる破壊が起きているのは明らかだ。ハルツームでは、数百万人ものスーダン人が依然として必要不可欠なインフラやサービスを利用することができない。人口の7割が農業と畜産業で生計を立てているが、内戦のために農場に辿り着くことすらできない地域が多い。 それは人道法の核心だ。敵対行為について語る以前に、住民は水、電気、必要不可欠なサービスを必要としている。 それは内戦の当事者との交渉の焦点になるか。 ICRCは、管轄区域で暮らす人々の基本的なニーズを満たすように管理するのは当局の責任だと指摘を続けている。十分な食糧と水を供給し、必要な援助へのアクセスができるようにしなければならない。 紛争法を順守するように説得するには? 実際にハルツームとダルフールに赴き、国軍とRSF間の対話の実現、国際人道法に基づく法的責任を両当事者が認識していると確認する立場の人間が必要だ。また、一般の住民の声を聞く必要もある。 当事者への批判ではなく、対話が全ての始まりだ。まずは事実を把握し、軍部隊の行動を司令部に報告し、実際に現場で行われた違反の程度を知らせる必要がある。まず上層部が変わらなければならない。鼓舞したり指示を与えたりするだけではなく、道義に反せずに戦闘に勝利するのだという責任感を持つようにするべきだ。路上に死体を積み上げることが勝利ではない。 戦争のさなかでも、人間性を維持するべきだ。そのための唯一の方法は、戦争に賛同しない人々、つまり一般市民を尊重することだ。 今月15日、スーダンで内戦が始まってから1年ということで、フランス政府はパリでスーダン情勢に関する会議を主宰した。ICRCも出席。求める成果は? 圧力を掛け続けるべきだと思う。内戦の実態を訴えかけ、住民の要望に沿った人道的対応を拡大するためにも、こうした会議は必要だ。資金面、さらにスーダン国内のアクセス状況についても言える。 150万人ものスーダン人が近隣諸国へと逃れた。だが周辺国でも人道的な状況は不安定であることが多く、それについて話し合うことも重要だ。人口が大量に流入することで水道、医療サービス、食料供給の需要もひっ迫する。 もはや、スーダン人との連帯について議論するだけでは十分でない。アフリカの角(アフリカ大陸東端の半島)の国々の安定のためにも、スーダンはこの危機から脱却することが不可欠だ。 編集:Dorian Burkhalter、仏語からの翻訳:吉田公美子、校正:ムートゥ朋子

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