「ダメだと思ったよ」――高橋藍の猛攻に敵会長も思わず冷や汗。最多タイの18得点も、チームは初戦を落とす【現地取材】

現地時間4月18日、バレーボールのイタリアリーグ/スーペルレーガで2023-24シーズン・プレーオフ決勝の第1戦が行なわれた。男子日本代表の高橋藍が所属するレギュラーシーズン5位ミント ヴェロ バレー・モンツァは、同2位シル スーサ ヴィム・ペルージャとアウェーで対戦。セットカウント1-3(25-27、18-25、25-23、23-25)で敗れて黒星発進となった。

世界屈指のリーグで今シーズン最後を飾る決勝がいよいよスタート。日本代表の若きエース高橋が挑む大舞台の初戦を現地取材した。

モンツァは、準々決勝で一昨年にリーグ2連覇を果たしたチヴィタノーヴァを、準決勝では昨年の王者トレンティーノを、それぞれ全5戦の激闘の末に撃破して今季3回目の決勝へ進出。コッパイタリアと欧州大会チャレンジカップを準優勝で終えた悔しさを、このリーグ王座獲りに注ぐ。

高橋にとっても満を持して臨む最終決戦。2大会の決勝は今季2回の負傷に本領発揮の機会を奪われ、コッパは欠場、欧州も途中出場に甘んじた。その思いを晴らすかのように、準決勝第3戦に試合最多の25得点。第5戦は決勝への切符をもぎ取った最終2打を決め、両試合でMVP(マン・オブ・ザ・マッチ)に輝いた。

決勝の相手は、準決勝で石川祐希が所属するミラノの前に立ちはだかったペルージャ。コッパ決勝では、モンツァを1セットダウンからの逆転で下して通算4回目の栄冠を手中に収めた。だが、アンジェロ・ロレンツェッティ監督は初戦へ向けた2日前のインタビューで、「コッパイタリアでモンツァは重要な選手を欠いていた。それは、ラン(・タカハシ)だ。今季、質の高いパフォーマンスを維持して、それまでのシーズンより、一段と存在感を示している。だから、ランがいるモンツァはコッパ決勝の時よりもクォリティが高いはずだ」と発言。オールラウンドに躍動する日本代表のアタッカーへ、警戒心を露にした。
両チームの先発は、ペルージャが、司令塔のイタリア代表・主将シモーネ・ジャンネッリ、アウトサイドヒッター(OH)ポーランド代表カミル・セメニュクとウクライナ代表オレフ・プロツニスキー、オポジット(OP)チュニジア代表ワシム・ベンタラ、ミドルブロッカー(MB)ブラジル代表フラビオ・グアルベルトとイタリア代表ロベルト・ルッソ。

モンツァは、高橋、カナダ代表のスティーブン・マーとエリック・レプキーのOH3枚、MBがイタリア代表ジャンルーカ・ガラッシと同胞ガブリエレ・ディ マルティーノ、司令塔はブラジル代表で名手ブルーノ・レゼンデの後継者と呼び声の高いフェルナンド・ジル クレリン(通称カショパ)でこの一戦へ臨んだ。
ペルージャの本拠地『パラ・バルトン』には、雨が降る平日の夜にもかかわらず、およそ4,800人の観客が詰めかけほぼ満員。イタリア国家が流れると大合唱が起こり、決勝の幕開けを盛り上げた。

第1セット、高橋のブロックで試合をスタートさせたモンツァが、続くガラッシのエース1本を含むサーブでいきなり3連続ブレーク。前半にバックアタック2発を炸裂させた高橋が、悪球を果敢に叩いてリードを6点へ広げる。そのまま、これまでの快進撃を象徴する試合運びで順調に終盤を迎え21-15。セット先取へ限りなく近づくが、そこからペルージャに猛反撃を許してしまう。セメニュクのサーブで3連続ブレークに見舞われてタイムアウト。その後、さらにエースとブロックを決められて1点に詰め寄られる。それでも踏ん張り24-21でセットポイントを握るが、3度のチャンスを逃して逆転で試合を先行された。

これを引きずったか、第2セットでは序盤から引き離されて2セットダウンの窮地へ。3セット目は、3点のビハインドを中盤の入りに挽回し、高橋がアタックとエースで5度にわたり僅差のリードを死守する。突入した終盤の混戦を耐え抜き、ガラッシの連続ブロックでセットを奪い返した。

迎えた第4セットでも高橋の奮闘が光る。2点を追う展開の序盤、コート中央からノールックでレフト方向へバックアタックと直後のレフト攻撃で同点に追いつく。モンツァは、中盤に被ブロック3本を浴びるなどして再び劣勢を強いられるが、ベンチに下がっていたマーがコートへ戻るとサーブで相手のアタックミスを誘発し、4連続ブレーク。一気に流れを引き寄せてリードを1点とする。すると、勝負を決めたいペルージャが、膝の故障で主力を離れるポーランド代表OHウィルフレド・レオンを投入。すぐさま強烈なアタックとエースを打ち込まれて劣勢へ押し戻されてしまう。高橋はラリー中の好守やアタックでチームの背中を押し続けるが、期待がかかったサーブはネットを越えず相手のマッチポイント。それを1度は阻止したモンツァだったが、粘り及ばずに黒星発進となった。
高橋は、ペルージャのOHプロツニスキーと並び試合最多タイの18得点(アタック16、エース1、ブロック1)を記録。アタック決定率で、1セット目(80%)から試合終了(70%)まで高い数字をキープするなど、次戦へつながる好パフォーマンスを見せた。

印象的だったのは、高橋の攻撃が決まる度にエンド席の机をこぶしで何度も叩いて悔しがっていたペルージャのジーノ・シルチ会長の姿。本拠地を訪れたサポーターたちは、6点差の劣勢で終盤を迎えた第1セットを、「ダメだと思ったよ」「あの逆転はミラクル」と振り返りながら額の汗を拭うジェスチャーを見せ、先勝に安堵した様子だった。

中2日で迎える第2戦は、日本時間4月21日22時15分開始。厳しい日程の中、モンツァはホームで勝利奪取へ挑む。

取材・文●佳子S.バディアーリ

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