「金がなければ逃げられない」犯罪組織の斡旋でアメリカへ…“中間層が中心”急増する中国からの不法移民

アメリカの国境にメキシコから殺到する不法入国者達。特筆すべきは中国からの不法移民が急増している実態だ。現場で何が起きているのか。実際に不法入国した中国人を国境で直撃すると、斡旋を生業とする組織の存在が判明した。

その渡航費用も高額で、利用者は貧困層ではなく、中間層が中心という実態も見えてきた。アメリカ国内では、中国人不法移民によるスパイを疑うような事件も起きていて、中国政府が不法移民を利用した組織的な諜報活動を実施しているとの疑念も広がっている。

「自由と民主主義を求めて」2カ月かけてアメリカへ

次々に訪れる中南米からの不法越境者を取材する中で、アジア系の30~40人の集団が混じっていることに気がついた。これが中国人の集団だったのだ。

男性の1人に話を聞くと、彼は中国の安徽省を1月に出発し、マカオ、香港、モロッコを経由して、エクアドル、その後、中南米を北上して「2カ月かけてここまで来た」という。その道程は、ジャングルを越え、悪質な警察官が逮捕をちらつかせて金をせびってくるなど困難を極めたという。そこまで苦労して来た理由を聞くと「自由と民主主義を求めて」と話していた。

多くの人が、カメラを向けての取材は中国政府に特定され、家族などへ危害を加えられることを懸念して答えてくれなかったが、匿名で話を聞かせて欲しいとお願いすると、何人かが詳細に不法入国までの道のりや方法を教えてくれた。

「蛇頭」に600万円支払った人も

まず、不法入国に向けては「蛇頭」と呼ばれる密入国を斡旋する組織と中国国内で接触し、SNSを利用して、最初の集合場所の指示を受けるという。費用は人によって様々だが、最大で600万円ほど支払ったと話す人もいた。

中国からアメリカまでの行き方は複数に及ぶが、ほとんどの人が共通で目指す最初の目的地は、中国人はビザが不要なエクアドルで、そこから陸路でメキシコに向かう。

エクアドル到着後は、「蛇頭」のSNSでの指示に従い、各所で現地の業者のサポートを受けて、険しい道中を進んでいく。移動方法には飛行機、船、バス、徒歩などオプションがあり、それぞれ事前に払う値段が異なっている。もちろん安全で楽な方法は高くなる。

さらに、子どもや荷物を背負ってもらうには、追加オプションとして現地で現金を追加払いすることになるという。ある男性は、中南米を踏破する中で、別途費用として数十万円を支払ったと話していた。

彼らの最終合流地点は、メキシコの都市タパチュラだ。そこに集まったメンバーが一塊となり、国境を目指したという。タパチュラからはメキシコシティを経由して、空路で国境の町ティフアナに向かったというが、航空券代として追加で約45万円を請求されたそうだ。彼らは不法移民の足元を見ていると怒り心頭だったが、何人もの人が、「金がなければアメリカに行くことはできない」「脱出は不可能」などと話していたことが印象的だった。

ある男性は「私の地元は経済が本当に良い。それでも中国政府に未来が見いだせないから来た」と熱弁していた。

取材して驚いたのは中国人の身なりだった。険しい山道や荒野、ジャングルなどを何時間も、何十時間かけて来たとは思えないほど綺麗だった。全員スマホも持ち歩いている。2カ月も3カ月もかけて歩いて来たのになぜなのか。理由を聞くと、「ジャングルを歩いている時は酷い格好だったけど、メキシコで服は買ったんだ」と笑って話していた。着の身、着のまま中国を出てきたわけではなさそうだ。

取材した国境地帯は砂漠地帯かつ、山あいのため寒さが酷く、「金ならあるからホテルを予約してくれないか?」とお願いしてくる人もいたが丁重にお断りした。

日本で観光してからアメリカに不法入国

一方、陝西省出身で、2月まで上海で働いていたという男性は、日本に1週間ほど滞在してから、メキシコ国内で「蛇頭」と接触して、このグループに加わったと話す。

手には成田空港のお店の袋を持った人の姿もあった。「テレビや学校で共産党が宣伝している日本と全然違ったよ」と話しかけて来る人もいた。

習近平国家主席についても聞いてみると「二百斤!」と、文化大革命時代に農村に習氏が送られた際に、200斤(100キロ)の穀物を背負って、担ぎ方も変えずに山道を5km歩き続けたと自慢したことを揶揄して、「嘘つきだ!」と批判していた。

ただ、習近平主席の悪口で盛り上がる人もいる一方で、一切私たちの方には近づかずに、顔を隠したまま、こちらを伺う人達もいた。声をかけてみたら、片言の日本語で「私は日本人です!」と叫ばれた。

急増する中国の不法移民にスパイへの懸念も

南部国境からの中国人の不法移民は、2023年10月から2024年3月までの半年間で2万4000人超となり、2021年度から50倍以上、2022年度から比べても10倍超と急増し、すでに前年を半年で上回った。

背景にはアメリカで中国人に対する留学ビザなどの規制が強化された影響で、一定数がビザを断念して不法入国に切り替えたとの見方もある。また、中国の政治体制や、経済状況に見切りを付けて、脱出する層が増えてきている証左かもしれない。

ただ、中国人不法移民を巡っては気になる事件も起きている。3月27日にはカリフォルニア州の海兵隊基地に、無許可で侵入した中国人の不法移民が逮捕されたのだ。

この事件の詳細はまだ明らかになっていないが、スパイ事案とも見られていて、ホワイトハウスのジャンピエール報道官は記者会見で、「この事件を私たちは非常に深刻に受け止めている」とコメントしている。

アメリカメディアは近年100人以上の中国人が観光客などを装って、基地やその他の機密施設に侵入していて、スパイ行為に関連したものだったとのアメリカ政府関係者の証言も報じている。

さらには、「トランプ政権にもしなったら不法入国ができなくなる」として、急いで決断したとの声も聞かれた。

彼らは中国の将来に見切りを付けたのか。はたまたそれを利用して何かの使命を背負って来たのかは不明だ。11月の大統領選挙に向けて、中国に対してさらなるビザ要件の厳格化の声も議会などから挙がる中で、困難な道程であろうと国境に向かう中国人はさらに増え続けそうだ。
(FNNワシントン支局 中西孝介)

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