アメリカ国境に殺到する不法移民 自治体の受け皿はパンク…高まるバイデン政権への不満

メキシコとの国境を不法に越えアメリカに入国した人は2023年、約250万人に迫った。国境に押し寄せる不法移民に対し、市民からは治安悪化への懸念の声が挙がり、現地の自治体の受け入れ機能もパンク状態だ。

日に日に高まる不安とともに、不法移民問題は11月のアメリカ大統領選挙の重要な争点にもなっている。

国境を越え警備隊を探す家族

私が取材班と向かったのは、西部カリフォルニア州とメキシコとの国境沿いにある町、ハクンバ・ホットスプリング。砂漠の中にある人口500人ほどの小さな町だ。

国境沿いにたどり着くと、6m以上はある巨大な「国境の壁」が山の向こう側まで延々とそびえ立っていた。ただ、「壁」は立派だが、アメリカ側で見張りをしている国境警備隊は明らかに人が足りていないようだ。

地元の人に話を聞くと、この町には、毎日数百人以上の不法移民が現れるという。早朝に不法に入国してきた人達が家のドアをノックして、助けを求めてくることもあったという。

人口わずか500人と「町に誰が住んでいるか互いに全員知っている」という地域に、その規模の不法移民が押し寄せていることに、住民の不安は高まっていて、移民政策に寛容なバイデン政権には受け皿も含めた対応が不足していると怒りを抱いている人も多いようだ。

小雨と強風の中で、早朝に「国境の壁」を撮影していると、遠くから壁伝いに歩いてくる6人組を発見した。中南米系とみられる家族で、小学生くらいの子ども達の姿もある。

しばらく緊張しながら様子を見ていると、国境警備隊が近づいてきて何かを話しかけた。すると、ものの1分ほどで全員が車に乗せられて、どこかに連れて行かれた。

不法移民は抵抗するわけでもなく、逃げるわけでもない。むしろ最初から国境警備隊を探して歩いていたようだ。国境警備隊も特に緊張するわけでもなく、流れ作業の様に車に家族を押し込んだ。

不法移民対策で軋轢 政府もボランティア頼み

国境に設置された巨大な壁は簡単には通れそうもない。しかし、各所に「抜け穴」と呼ばれる隙間などがあり、アメリカメディアも大々的にその存在を報じていた。

現場を訪れると、メキシコ側では軍がテントを張っていて、24時間体制で見張り、さらにはトランプ前大統領の支持者などが有刺鉄線を自発的に配置し、見回りをするなどものものしい雰囲気となっていた。

私たちに現地で案内してくれた、不法に入国した人達へ医療支援を行っているカレン・パーカーさんは、彼らに支援をやめるよう嫌がらせや、脅迫されたとも語っていた。実際、人道的な配慮は前提として、押し寄せる不法入国者を放置すれば、影響をもろに受けるのは現地に住む人達だ。そのため、現地ボランティアが一時避難施設を各所に作り、混乱を起こさないように日夜活動を行っていた。

政府の収容施設は常に満員状態で、ボランティアが自費で運営する一時避難施設に、頼らざるを得ない現状になっている。この点をパーカーさんは、政府の対応不足で、ボランティアに「丸投げしている」と強く不満を漏らしていた。

不法移民が国境に殺到

国境の壁際での物々しい警戒は行われているが、国境の壁はとにかく長い。そこで、壁の隙間からの越境が無理ならば…と、壁がない険しい山道を使って越境する人達が続々と現れたのだ。山を見ていると、偶然、数十人の人影を見つけた。

暴風雨に加えて、体感気温は氷点下に近い中、どのくらい歩いてきたのだろうか。コロンビア、ブラジル、エルサルバドル、トルコと国籍はバラバラだ。彼らは国境警備隊を探しているようで、私たちが教えるとすんなり全員がそこに向かい、指示に従って一時避難施設へ向かった。かなりシステマチックな流れだ。

その後も、次々と中南米系の数十人単位の集団がひっきりなしに、国境を越えてきた。国境警備隊を恐れるわけでもなく、私たちに笑顔で手を振る人達の姿も多く見られた。
(FNNワシントン支局 中西孝介)

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