空いている電車で座るなら? 9割近くが「端の席」、そうでなければ「座らない」という人も

空いている電車内。座るときはどこを選ぶ?(写真はイメージ)【写真:写真AC】

電車は、生活において欠かせない交通手段のひとつ。日本を訪れる外国人観光客の多くも日本の電車を利用し、清潔さやマナーの良さに感激する声をよく耳にします。その一方で、電車が空いているのに「端の席だけが埋まっている」光景に驚くこともあるようです。そこで、実際に日本人は、空いている電車内でどの座席を選ぶのか、またその理由についてアンケートを実施。その結果をもとに「端の席を選ぶ」行動心理や背景について、環境心理学や社会心理学を専門とする、武蔵野大学名誉教授の小西啓史さんに解説していただきました。

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空いている電車内で「端の席に座る」との回答は約9割【画像:Hint-Pot編集部】

空いている電車内で座るなら圧倒的に「端の席」

アンケートは2024年3月18日に、全国の10代から60代以上のYahoo!JAPANユーザーの男女2000人を対象に実施されました。(回答者の性別:男性66%、女性33%、性別を教えたくない1%/回答者の年齢構成:10代1%、20代5%、30代13%、40代29%、50代29%、60代以上22%、年齢を教えたくない1%)

まず、「電車内で座席が空いていたらどこに座りますか?」との質問に対し、「端の席」が87.6%、「端の席以外」が5.3%、「座席には座らない」が7.1%という回答でした。

「端の席に座る」という理由については、「一番落ち着くから」「できるだけ人と接したくない」「電車から降りやすいから」などの意見が。また、「端の座席以外」という人からは、「ドアの近くは寒いから」「乗客の乗り降りが気になる」「端の席は横に立っている人に圧迫される感じがするから」との声が上がりました。

端の席を選ぶのは日本人ならではの行動?

アンケートでは約9割の人が端の席を選んでいることがわかり、日本人には端の席を好む傾向があるとみられます。空いている電車内で端の席だけ埋まっている光景を見かけることもよくありますが、武蔵野大学名誉教授の小西啓史さんによると、これは日本人だけにみられる行動ではないようです。

「これまで行われてきた研究を見る限り、必ずしも日本人の特性とはいえないでしょう。端の席を選ぶのは、日本人だからというよりも、『ほかの人となるべく関わりを持ちたくない』という気持ちがそのような行動をさせるのではないかと考えます。とくに、内向的な性格の人にこの傾向が強いように思います。私が以前、韓国で調べたときも、通勤電車の7人がけロングシートでは、初めに両端の席が、そのあとは中央の席が占められていました。

また、これはアメリカの研究ですが、部屋に入って席に着くとき、あらかじめ『これから部屋の中が混み合ってくる』という情報を与えると部屋の端の席を選び、一方、『これから人が入ってこない』という情報を与えると真ん中の席を選ぶ傾向がみられました。これらの結果からも、なるべく人と関わりを持ちたくないときに端の席に座るといえるでしょう。同じように、都心の通勤電車など、これから混雑が予測されるような状況では、始発駅でも端の席が選ばれると考えられます」

端の席が空いていなかったら座らないという人も【画像:Hint-Pot編集部】

端の席が空いていないときは「座らない」という人も

また、アンケートでは「座席の位置に関する質問で『端の席』を選んだ人で、端の席に座れない場合、別の位置に座りますか?」という質問をしたところ、「はい」が77.9%、「いいえ」が10.5%という結果になりました(ほかに「『端の席』を選んでいない」が11.6%)。

「はい」と回答した人からは「とりあえず空いていたら座りたい」「空いている席に座ったほうが混雑防止に役立つ」「座れる場所に座るけれど、端の席が空いたら移動する」という声が。一方で「いいえ」と答えた人からは、理由として「できるだけ他人と接したくない」「両側に人がいるのが不快なので座らない」など、端の席以外には座りたくないとの意見がありました。

これについて、「端の席は、車両内のシートという限られた空間の中で、他の人と接しなくて済む最も適当な席」という認識があるからと、小西さんは考えます。

「たとえば動物の行動から考えても、外敵から身を守る点では、壁を背にすることは有利です。電車でも、端の席には片側にポール(手すり)があるので壁と同じように安心できるのでしょう。中央の席は、先に座っている人(ロングシートの両端に座っている人)との関わりを避けることはできますが、このあと自分の左右に座られる可能性がありますから、端の席ほどには落ち着くことはできないと考えられます」

車内は空いているのに…わざわざ「端の席」に座る日本人が多い理由

電車で端の席を選ぶことは日本人特有のものではないものの、電車内が空いているのにあえて「端の席」に座る多くの日本人の選択は、外国人から見ると「ほかの席も空いているのになぜ端を選ぶの?」と疑問を抱くこともあるようです。

この点について、小西さんは、プライバシーを守りたい意識と、「端」という位置に抱く印象が、日本人と海外の人とで違いがあるのかもしれないと考えます。

「日本人のパーソナルスペースは比較的大きく、会話のときも比較的距離を取る傾向にあります。このことから公共の場面で、ほかの人に邪魔されたくない、プライバシーを守りたいという意識が外国人よりも強く、端の席はプライバシーを守るうえで最適の席と考える日本人は多いと言えるのかもしれません。

また、端に対するイメージについても、日本では『隅っこ』に由来するキャラクターの『すみっコぐらし』や、広い通りではなく細い迷路のような道を探索する『路地裏散策』が人気になるなど、『端』について比較的好ましい印象があるように思います。『隅っこ』や『端』に対してネガティブなイメージがある外国人にとっては、真ん中も空いているのにわざわざ端の席に座る日本人を見ると、不思議な感じがするのかもしれませんね」

電車の座席に対するイメージはさまざま。どこの座席が空いていても、自分だけでなく、ほかの乗客のことも考えながら快適な空間として利用したいですね。

※この記事は、「Hint-Pot」とYahoo!ニュースによる共同連携企画です。

◇小西啓史(こにし・ひろし)
立教大学大学院博士課程修了。武蔵野大学人間科学部教授を経て、現在は武蔵野大学名誉教授。専門は環境心理学、社会心理学、産業組織心理学。とくに、人間の空間行動(パーソナルスペース、対人距離、座席行動。クラウディン(混雑感)など)に関する研究。所属学会は、日本心理学会、日本社会心理学会、産業組織心理学会、人間-環境学会、日本環境心理学会など。

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