じつは缶詰じゃない? 明日から話せる「アンチョビ缶」にまつわるトリビアをすべて教えます

製法や保存法など、アンチョビにはいくつかの謎がある (撮影:黒川勇人)

しょっちゅう使うわけじゃないけど、欲しい時にないと困るのがアンチョビであります。魚臭くて塩気が強く、発酵食品と同じ旨味があって、高級品になるほど味がまろやかになる。なかには、まるで生ハムのような風味を持つ高級品も存在する。

アンチョビには缶入りとびん入りがあって、どちらも製法はまったく同じ。生のカタクチイワシを塩漬けにし、オリーブ油と一緒に容器に詰めて密封してあるのだ。ちなみに密封後の加熱はしていない。大事なことなのでもう一度書くけど、加熱はしていない。つまり、缶詰とびん詰の定義が「密封後に加熱殺菌」であることを考えると、アンチョビは缶詰(びん詰)じゃないことになる。

普段なにげなく使っていても、中身について意外とわからないことが多いアンチョビ。今回はその謎を解き明かそうと思う。

■アンチョビとは、いわばイワシの漬け物

スペインでは生でもよく食べる

日本のスーパーだと、アンチョビは大抵パスタやトマト缶の近くに置いてある。つまりイタリア料理の素材として扱われているわけで、実際の用途もパスタソースなどに混ぜこむことがほとんどだと思う。実際にイタリアでも使い方は似ていて、オリーブ油と一緒に加熱してソースにしたり、野菜と一緒にオーブン焼きにしたりする。そのまま使う料理もあるが、火を通す料理のほうが圧倒的に多いはずだ。

対してスペインでは、アンチョビを生のままダイレクトに味わう料理が多い。とくにバルと呼ばれる居酒屋では、アンチョビをフィレのままバゲットにのせて提供する。あまり塩辛さを感じないのは、缶(びん)に詰める前の塩漬け期間を長く取り、熟成させて塩味をまろやかにしているからだ。

そう考えると、アンチョビはいわばイワシの漬け物。製造段階で加熱しないのも納得できる。

■保存は冷蔵庫で!

日本で売られている高級アンチョビ缶はスペイン産のものが多く、なかには内容量50g程度で2,000円近くするものがある。そのレベルになると、もとの値段が高いのはもちろんだけど、輸入には冷蔵コンテナを使い、到着後も売れるまでずっと冷蔵保管される。発送時にも冷蔵トラックを使うという徹底ぶりだから、その間の冷蔵費が馬鹿にならないのだ。

そもそもアンチョビは生なので、常温のままだと少しずつ中身が劣化していく。風味が落ちて色が黒ずんでいき、賞味期間を過ぎればやがて身はバラバラに溶けてしまう。それでも腐らないのは、塩漬け&油漬け&密封にして、菌類や微生物類を繁殖しにくくしているから。だから、通常のアンチョビは常温の売り場に並んでいるわけだ。

しかし、冷蔵すれば劣化が遅くなるのは間違いない。たとえ安価なアンチョビでも、買ってきたら必ず冷蔵庫で保存してほしい。とくに最近の夏の暑さはアンチョビにとって大敵ですぞ!

■野菜がいくらでも食べられる

野菜はちょっと焦げたくらいがおいしい

さて、我が家にも賞味期限を過ぎたアンチョビ缶があった。冷蔵保存していたけど、開けてみたら身がすでに褐色に変化していたのだ。

こいつをアウトドアに持ち出し、ニンニクと一緒に刻んでオリーブ油で加熱して、レッドペッパーも加えて、シンプルに焼いた春野菜にぶっかけてみた。菜花のわずかな苦みに、新ジャガのみずみずしさ。葉のすみずみまでジューシーなブロッコリー。それら春の贈り物に塩辛くオイリーなアンチョビソースがよく合って、いくらでも野菜が食べられそう。まさにアンチョビさまさまな、お手軽料理であります。

このように余計な調味料なしでも、食材のポテンシャルを引き出しておいしく仕上げてくれるのがアンチョビ缶の素晴らしさ。お宅の冷蔵庫に余っている野菜はありませんか?

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