【名馬列伝】東西を代表するトップ調教師の“合作”とも称されたエピファネイア。桜の女王の活躍次第では、種牡馬のさらなる価値向上も

去る4月7日、桜花賞のゴールをステレンボッシュがトップで駆け抜けた。彼女は父エピファネイアにとって、産駒4頭目のGⅠホースとなった。

ステレンボッシュに先駆けて誕生したエピファネイアのGⅠ産駒というと、2020年の三冠牝馬デアリングタクトをはじめ、21年に皐月賞と天皇賞(秋)、有馬記念を制したエフフォーリア。同年の阪神ジュベナイルフィリーズ勝ち馬のサークルオブライフと、華々しい顔ぶれが並んでいる。

また、これらのGⅠホースを含めて、重賞を勝った産駒を5世代目の3月までに14頭も送り出したエピファネイアは、もはや紛れもない現役屈指のトップサイアーである。

エピファネイアの父は天皇賞(秋)を連覇し、03年暮れの有馬記念を制覇後に引退した外国産のシンボリクリスエス(父Kris S.)。2年連続年度代表馬に選出された名馬である。母は05年のオークス(優駿牝馬)とアメリカンオークス(米GⅠ)を勝って最優秀3歳牝馬に輝いたシーザリオ(父スペシャルウィーク)。エピファネイアはこの偉大な父母のもと、2010年2月にノーザンファームで生を受けた良血馬であり、母を米GⅠ馬に導いた名伯楽・角居勝彦調教師に預けられることとなった。

血統的背景もあってデビュー前から評判になっていたエピファネイアは、12年10月の新馬戦(京都・芝1800m)でデビュー。これを圧勝すると、京都2歳ステークス(OP、京都・芝2000m)、ラジオNIKKEI杯(GⅢ、阪神・芝2000m)と3連勝を飾って、「翌年のクラシック候補」との高評価を受けて2歳シーズンを終えた。
しかし3歳の春は、エピファネイアにとって悔しいシーズンとなる。

初戦の弥生賞(GⅡ、中山・芝2000m)は4着に終わり初の敗北を喫すると、皐月賞(GⅠ、中山・芝2000m)ではロゴタイプに、日本ダービー(GⅠ、東京・芝2400m)ではキズナに、それぞれ半馬身差の2着に敗れ涙をのんだ。

巻き返しを期す陣営はエピファネイアの成長を促しつつ、悍性が強すぎるというウィークポイントの改善に取り組んだ。夏の放牧休養を経て、エピファネイアは秋初戦の神戸新聞杯(GⅡ、阪神・芝2400m)で折り合いに進境を見せて楽勝。不良馬場で行なわれた菊花賞(GⅠ、京都・芝3000m)は先行策から早めに抜け出すと、あとは独走状態。2着に5馬身差を付けて優勝し、僅差の2着に終わった春クラシックのリベンジを見事に果たしたのだった。

善戦しつつも勝ち鞍から遠ざかったエピファネイア。悲願のGⅠホースとなったが、翌年の秋にキャリアハイとも言える激走を見せることになる。 2014年、秋の天皇賞(GⅠ、東京・芝2000m)を0秒2差の6着としたのちに参戦した11月30日のジャパンカップ(GⅠ、東京・2400m)。メンバーはジャスタウェイ、ジェンティルドンナ、ワンアンドオンリー、スピルバーグ、イスラボニータ、ハープスターと、GⅠホースがずらりと顔を揃えた超ハイレベルな一戦となった。

エピファネイアは鞍上にフランスのトップジョッキーであるクリストフ・スミヨンを迎えてレースに臨むと、3番手という好位置を進み、直線の坂に入るとほぼ「持ったまま」で先頭に躍り出る。そして、スミヨン騎手のゴーサインを受けると一気に差を広げて独走状態に持ち込み、2着のジャスタウェイに4馬身差を付けて圧勝。菊花賞以来、久々の勝利を挙げた。

しかも、このハイパフォーマンスが世界に評価され、『ワールドベストホースランキング』で本年の2位(129ポンド)にランクされる栄誉に浴した。ちなみに1位は前年の天皇賞(秋)を圧勝して130ポンドを得たジャスタウェイ(ジャパンカップでも2着)で、日本馬が世界のワンツーに堂々ランクインした。

翌年、ドバイワールドカップ(GⅠ、メイダン・ダート2000m)に遠征したエピファネイアは9着に惨敗。6月の宝塚記念(GⅠ、阪神・芝2200m)に向けて調整されていたが、その過程で左前肢に繋靭帯炎を発症。回復までには長い時間を要するという所見を受けて現役を引退。種牡馬入りが決定し、社台スタリオンステーションにスタッドインした。
ところが、種牡馬としてのエピファネイアに対する評価は賛否相半ばした。

血統的には、父シンボリクリスエスがそれまで後継種牡馬となるほどの大物産駒を出していなかったことが懸念されたこと。もうひとつは、強い勝ち方はしたものの、GⅠ2勝という成績が物足りないという声があったのも確かだった。それでも、社台スタリオンステーションに繋養されたブランド価値に加え、種付料が250万円と手ごろだったことや、サンデーサイレンス系との牝馬と交配しやすいことも手伝って、初年度から221頭もの繁殖牝馬を集めた。

エピファネイアは初年度産駒の勝ち上がり率が優秀で、一定の評価を受けていたが、そのなかなら飛び出したのが、無敗の牝馬三冠を達成したデアリングタクトだった。

2年目以降も、200頭以上の交配牝馬を集める人気種牡馬となっていたエピファネイアの種付料は2020年には500万円に上がっていたが、デアリングタクトの活躍で21年には倍増の1000万円にジャンプアップ。さらにエフフォーリア、サークルオブライフが大活躍したため、22年の種付料は1800万円まで跳ね上がった。

本年は料金が下げられているが、それでも三冠馬コントレイルと並んでの1500万円であり、先日の桜花賞を制したステレンボッシュの今後の活躍次第では、次年度もまた大きくアップするかもしれない。

筆者のエピファネイアに対する印象は、何と言ってもジャパンカップで見せた圧勝劇で、並み居る強豪たちを置き去りにしたシーンはいまも強く記憶に残っている。また、元調教師である藤沢和雄氏が管理したシンボリクリスエスと、「世界のスミイ」と称された角居勝彦・元調教師のシーザリオの子は大きな関心を集め、当時の東西を代表するトップトレーナーによる「合作」というイメージもいまだに強い。

それと同時に、海外での大きな成果を含め、競馬シーンを長年引っ張ってきた名トレーナー2人が引退して、いまや競馬界の最前線にいないという喪失感をあらためて覚えた次第である。

※本項に表記した種付料は、すべて「受胎確認後支払い」の条件が付いている。

文●三好達彦

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