奈良在住の西畑さんモデルに実話映画、大和郡山市などで撮影 春日中学校夜間学級で識字学習し自筆で妻へ感謝の手紙

映画「35年目のラブレター」で、主人公の鶴瓶さんが魚を仕入れるシーンの撮影風景=3月22日、大和郡山市筒井町の県中央卸売市場

 奈良市立春日中学校夜間学級に定年後の男性が通学し、読み書きを覚えて自筆の手紙を妻に送った実話を基にした笑福亭鶴瓶さん主演の映画「35年目のラブレター」(東映)の撮影が先月下旬、大和郡山市筒井町の県中央卸売市場や奈良市の奈良公園などで行われた。映画のモデルとなった奈良市在住の西畑保さん(89)は「自分のことが映画になる。楽しみやね」と期待している。映画は2025年3月7日に公開される予定。

 県中央卸売市場での撮影では、日の出前から総合水産卸売会社「七海水産」をはじめ市場関係者らも参加してスタンバイ。寿司職人の西畑さんを演じる鶴瓶さんが、魚市場で仕入れるシーンの撮影が行われた。

 西畑さんは小学2年生の時、いじめが原因で不登校になり、読み書きができないまま大人になった。戦時中で、和歌山県の山村で母の再婚相手の仕事を手伝い、12歳からパン屋で働いた。14歳で奈良県内で仕事に就いたが、読み書きができないことからいじめに遭い、苦労が絶えなかったという。大阪府内でも店を転々とした。

 30歳の時に西畑さんの境遇に理解を示す奈良市の寿司屋の主人と出会い、35歳で見合い相手の皎子(きょうこ)さんに一目ぼれ、読み書きができないことを隠して結婚した。ばれた時には離婚と観念したが、皎子さんの言葉は「辛かったでしょう。一緒に頑張りましょう」だった。

 よく前を通っていた春日中学校に高齢者が出入りするのを見て夜間中学を知り、定年と同時に入学。支えてくれた妻に自筆で感謝を伝えたかったという。70歳のクリスマスの日、初めて妻に便箋7枚のラブレターを渡した。結婚して35年目のこと。以来、毎年クリスマスにラブレターを渡したが、4回目は届けられなかった。

 この実話を数多くのテレビドラマや映画を手掛けてきた塚本連平監督が映画化。塚本監督は「保さんの人生を通して、多くの伝えたい事を全て入れました。大笑いして、大泣きして、優しくて、素朴で、心に残る映画。観終わって誰かに感謝を伝えたくなる、そんな映画を目指す」とホームページでコメントした。

 県人権情報誌「かがやき・なら」(2021年7月発行)で西畑さんが紹介され、書籍化もされた。

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