小林製薬は“サプリ大国”に冷や水浴びせた…日本は「紅茶キノコ」の時代から進歩なし?(元木昌彦)

謝罪会見(左から2人目が小林幸治社長)/(C)日刊ゲンダイ

【週刊誌からみた「ニッポンの後退」】

テレビや新聞、雑誌には、「ひざ関節の悩みにグルコサミン」「アンチエイジングにコエンザイム」「ダイエットにカプサイシン」とうたうサプリ広告があふれている。

今回、多くの死者まで出した小林製薬の「紅麹コレステヘルプ」も、キャッチコピーには「悪玉コレステロールを下げる」とあった。

昔、アメリカは“サプリ大国”といわれた。メガマックとコーラをガブ飲みして山ほどサプリを飲む。

私もアメリカに行くと、日本では手に入らないサプリを買い漁り、友人たちに配って喜ばれたものだった。

サプリを日本では「健康食品」と言い換え、アメリカと同じように市場規模を急拡大させてきた。

1970年代には「サルノコシカケ」や「紅茶キノコ」ブームがあったのを覚えているだろうか。がんに対する免疫力を上げる、がんが治るとメディアが取り上げ、何万円という値で取引され投機の対象にもなった。紅茶キノコは国会でも問題になったが、厚生省(当時)の役人が「タダのお酢」だと答弁したことで、いつの間にか消えていった。

しかし、ハンバーガー&コーラ&サプリこそがアメリカ文化だと錯覚した日本人のサプリ好きは止まらなかった。拍車をかけたのは安倍晋三首相(当時)だった。

2015年に規制緩和と称して、企業側の届け出だけで国の審査の必要のない機能性表示食品制度を導入したのである。「○○に効く」「○○が治る」とうたわなければなんでもOKというので、大手洋酒メーカーや小林製薬など多くの企業が、大量の宣伝費を投入して新商品を出し続けてきたのだ。

銀座東京クリニックの福田一典院長は週刊現代(4月20日号)でこう言っている。

「機能性表示食品は、厳密な実験によって効果を証明されたわけではありません。実験中にまぐれで1回でもいい結果が出れば、効果的だと宣伝できてしまう」

中でも老齢化が急速に進むこの国ではグルコサミンがサプリ界の王様である。だがグルコサミンについての評価はほとんど定まっているように思う。効果がないのだ。

同じ週刊現代で、予防医療サプリメントアドバイザーの柴田丞も、「口から飲んだグルコサミンやコンドロイチンが直接、膝などの関節に届くことはありえません。体内でブドウ糖とアミノ酸に分解されるだけです」と言っている。

アメリカでは、こうしたサプリの安全性や有効性に関する情報をNIH(米国国立衛生研究所)がHPで公開している。日本では厚労省のHPに同様のものがあったが、週刊ポスト(4月26日号)によれば、昨年突如、有効性情報はあるが安全性情報が削除されていたというのである(厚労省は調査中というだけ)。これでは厚労省は企業側の広報機関といわれても仕方あるまい。

NIHには紅麹(モナコリンK)について、「筋肉、腎臓、肝臓の損傷などスタチン系薬剤と同じ潜在的な副作用が発生する可能性」があると警告している。

小林製薬の事件はサプリ全盛時代に警鐘を鳴らした。メディアの役割は、小林製薬を叩きながら一方で大量のサプリ広告をたれ流すことではなく、広告と同じくらいのスペースを使って機能性表示食品の内実を検証報道し、厚労省に問いただすことではないのか。

サプリ愛好家が一番知りたがっていることもそこにあるはずだ。 (文中敬称略)

(元木昌彦/「週刊現代」「フライデー」元編集長)

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