P・マッカートニーやF・マーキュリーも愛した高級ピアノ「ベヒシュタイン」の秘密

日比谷のショールームにて(ベヒシュタイン・ジャパンの加藤正人社長)/(C)日刊ゲンダイ

ベヒシュタイン・ジャパン 加藤正人社長

NHKの隠れた人気番組「駅ピアノ・空港ピアノ・街角ピアノ」の影響もあるのだろうか。いまピアノに興味をもつ中高年が増えているそうだ。そこで今回は知識をぐっと深めてもらう企画。世界三大ピアノの一つで、ビートルズのポール・マッカートニーやクイーンのフレディ・マーキュリーらにも愛用されてきたベヒシュタインの意外な秘密について聞いてみた。ウンチクを深めればあなたのピアノの腕も上がるかも──。(前後編の【前編】)

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【Q】ベヒシュタインが日本に入ってきたのはいつ頃からなのですか?

日本には大正10年ごろに入ってきました。当時の日本楽器(現ヤマハ)の2代目社長がピアノ製造の技術を学ぶため欧米のメーカーを探していたところ、ベヒシュタインと提携することになったのです。その後、5年をかけてベヒシュタインの技術者が浜松に滞在し、日本楽器の技術者に指導。これが日本のピアノ製造の礎となりました。

その後、第2次世界大戦を経て、ベヒシュタインは不遇の時代を過ごします。しかし1986年、ドイツ人のピアノ職人たちが立ち上がり、再びベヒシュタインをドイツブランドとして復活させたのです。そして翌87年、ベヒシュタイン・ジャパンの前身になるベヒシュタイン日本総代理店が設立されました。

アップライトピアノも「完成された楽器」として扱っています

【Q】ピアノの主な種類を教えてください

主に市場に出回っているのはグランドピアノ、アップライトピアノ、電子ピアノの3種類です。アメリカは特にグランドピアノが主流ですが、日本ではアップライトピアノの人気も根強くあります。日本ではスペースの制約もあるのでしょう。ただベヒシュタインでは、アップライトピアノも完成された楽器として扱っています。プロのピアニストでも、自宅ではアップライトを好む方は多いですね。

【Q】ピアノはどうしてあんなに大きな音が出るのですか?

ピアノの中には「共鳴板」という大きな板があり、それに弦の振動が伝わることで、あの豊かな響きが生まれるのです。共鳴板だけでなく、蓋の内側の材質まで、広葉樹と針葉樹を使い分けて響きをコントロールしています。まさに職人技の結晶といえるでしょう。その音量たるや、思いっきり弾くと100デシベルを超えることも。100デシベルとは地下鉄の構内くらいの大音量。だから、アンプなどを使わなくても、大きなコンサートホールで客席の隅々まで音を響かせることができるのです。

【Q】ピアノの部品数はどれくらいあるのですか?

どこまでを部品とカウントするかにもよりますが、8000点は下らないでしょう。その中でも特に重要なのが、音に直結する「響板」と「ハンマー」です。それから、ピアノの弦は1本当たり80~100キロの張力がかかっており、全部で20トン。それを支えているのが鉄骨フレームで、これも音を左右する大事なパーツです。つまりピアノというのは、木材と金属とが絶妙なバランスで成り立っている精密機械なのです。=【後編】につづく

(聞き手=いからしひろき)

▽加藤正人(かとう・まさと)1963年、岐阜県多治見市生まれ。国立音楽大学で調律を学び、ドイツに渡って「ピアノ製作マイスター」の資格を取得。帰国後、タイヨー・ムジーク・ジャパン(現ベヒシュタイン・ジャパン)入社。2017年から同社代表取締役社長を務める。

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