ボリウッド完全復活を成し遂げた「主演3作が年間TOP10入り」の名優とは?インド映画『PATHAAN/パターン』を観ておくべき理由

『PATHAAN/パターン』© Yash Raj Films Pvt. Ltd., 2023. All Rights Reserved.

2023年はシャー・ルク・カーンの年だった

2023年のボリウッドは、「シャー・ルク・カーン・イヤー」だった。いや、ボリウッドことヒンディー語映画界だけではない、インド中がシャー・ルク・カーンの1年となったのだ。

まず、1月25日に公開された本作、『PATHAAN/パターン』が大ヒット。コロナ禍もあってシャー・ルク・カーンの主演作は、2018年12月21日に公開された『Zero(ゼロ)』以降途絶えていたのだが、丸4年ぶりに我らがスターの勇姿が拝めるとあって、人々は映画館に押し寄せた。

大フィーバーは本作の配信が開始される3月21日まで続き、私が公開1ヶ月後にムンバイの映画館で見た時も、シャー・ルク・カーンの初登場シーンでは場内は叫び声と指笛で大沸騰。さらに、ある大物スターがカメオ出演しているのだが、そのシーンでは大スター2人の競演とあってまたまた場内は大騒ぎ。こうして『PATHAAN/パターン』は105億ルピー(189億円)稼いで、この時点で2023年興収トップに輝いたのだった。

ボリウッド完全復活を成し遂げた「3大カーン」の稼ぎ頭

その後、この作品を抜いて年間興収第1位に躍り出たのが、9月7日公開のシャー・ルク・カーン主演作『Jawan(兵士)』だ。こちらはタミル語映画の人気監督アトリーの作品で、相手役もディーピカー・パードゥコーンと、タミル語映画界のトップ女優ナヤンターラの2人が務めている。ストーリーはなかなかに複雑で、それもあってリピーターが多かったのか、『PATHAAN/パターン』を抜く114億8千万ルピー(206億6千万円)という興収を上げた。

こうしてインド映画歴代興収の第5位を『Jawan』が、第6位を『PATHAAN/パターン』が占める結果になったのだが、実はもう1本、シャー・ルク・カーン主演作が年末にヒットする。『きっと、うまくいく』(2013年)のラージクマール・ヒラーニー監督が、シャー・ルク・カーン主演で撮った『Dunki(ダンキー)』を12月21日に公開、これも47億ルピー(84億5千万円)という歴代興収24位のヒットとなったのである。2023年は、シャー・ルク・カーン主演作3本が年間興収トップ10入りを果たし、それまで南インド映画に押されていたボリウッド映画はトップ10中の6本を占め、完全復活を遂げたのだった。

ボリウッド発「YRFスパイ・ユニバース」とは?

※物語の内容に一部触れています。ご注意ください。

そんな、「シャー・ルク・カーン・イヤー」の皮切りとなった『PATHAAN/パターン』だが、実は非常にオーソドックスな国際スパイ合戦映画だ。“パターン”とは、シャー・ルク・カーン扮するインド人エージェントのコードネーム。アフガニスタンやパキスタンに在住する部族<パターン人>から取られた名前で、本名は明かされていない。

インドの情報組織<RAW(Research and Analysis Wing)>の一員であるパターンは、何度も死地をくぐり抜けてきた優秀なエージェントだが、体は満身創痍。他にも様々な弱点を抱えるエージェントたちを集め、内部組織JOCR(ジョーカー)を作った彼は、RAWの元エージェント、ジム(ジョン・エイブラハム)がパキスタンの将軍と手を組み、インドへの攻撃を準備していることを知る。彼らの計画を暴き、阻止すべく動き出したパターンは、パキスタンの情報組織<ISI(Inter-Services Intelligence)>のエージェント、ルバイ(ディーピカー・パードゥコーン)とジムの仕掛けた罠にはまってしまう……。

監督は、かつてリティク・ローシャンとタイガー・シュロフを起用し、やはりスパイ合戦を描いたヒット作『WAR ウォー!!』(2019年)を撮ったシッダールト・アーナンド。『WAR ウォー!!』は2019年の興収第1位、現在の歴代興収順位では22位という好成績を残した作品だが、製作会社ヤシュ・ラージ・フィルムズ(YRF)は同じ監督を起用して『PATHAAN/パターン』を撮るにあたり、両作品を関連付けてしまおうと考えた。こうして、「YRFスパイ・ユニバース」構想が生まれ、『WAR ウォー!!』以外にもかつてYRFが製作したスパイ映画、『タイガー 伝説のスパイ』(2012年)とその続編も組み込まれることになったのである。

間もなく日本公開『タイガー 裏切りのスパイ』との関係

2013年に日本公開されている『タイガー 伝説のスパイ』はサルマーン・カーンの主演作で、RAWのエージェント“タイガー”とISIのエージェントであるゾヤ(カトリーナ・カイフ)とが恋に落ち、最後は祖国に背を向けて逃避行を決行する、という物語である。この『タイガー』シリーズは第3作まで作られ、2023年11月11日にインドで公開された第3作『Tiger 3』は今年、日本でも5月3日から『タイガー 裏切りのスパイ』として公開される予定だ。

2023年の興収第8位となり、やはりボリウッドの復活に大きく貢献した『タイガー 裏切りのスパイ』だが、「YRFスパイ・ユニバース」では、同年配のパターンとタイガーは親友同士、という設定になっている。そう、実は前述した『PATHAAN/パターン』に“ある大物スターがカメオ出演している”というのは、サルマーン・カーン演じるタイガーなのだ。2人の息の合った掛け合いとアクション・シーンは秀逸で、最高に盛り上がるシーンとなった。

『PATHAAN/パターン』はほかにも、シャー・ルク・カーンとディーピカー・パードゥコーンの洗練されたソング&ダンスシーン2カ所など、見どころが満載だ。特に前半に登場する「Besharam Rang(恥知らずな<格好の>私)」は、「エロティックすぎる」と保守的な人々から非難されたぐらい、色っぽいソング&ダンスシーンとなっている。

2023年日本公開作『ブラフマーストラ』(2022年)のカメオ出演で、「あのイケおじは誰?」と話題になったシャー・ルク・カーンの魅力がぎゅっと詰まった本作には、彼のセリフに珍しく「キンツギ」という日本語も出てくる。ここで使われたから、この単語が<オックスフォード英語辞典>に取り上げられたのでは? と思ってしまうが、吹替版のセリフでも「金継ぎ」の登場にぜひご注目、ならぬご「注耳」を。

文:松岡 環

『PATHAAN/パターン 【日本語吹替版】』はCS映画専門チャンネル ムービープラス「ハマる!インド映画」で2024年4月放送

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