【社説】火山本部の設置 観測の強化へ人材育成急げ

 世界有数の火山大国として「火山防災力」の底上げにつなげなければならない。

 政府は今月、文部科学省に「火山調査研究推進本部(火山本部)」を新設した。観測や調査研究を一元的に進める司令塔の役割を担う。

 議員立法で昨年6月に成立させた改正活動火山対策特別措置法(活火山法)の柱である。富士山のある山梨や静岡など23都道県の連合組織の要望が後押しした。地震に比べて火山噴火への対策は遅れていただけに、意義深い。

 長野、岐阜両県にまたがる御嶽山で、死者・行方不明者が戦後最悪の63人に上った噴火災害から今年、10年になる。気象庁は住民の避難、登山者らの立ち入り規制の範囲を5段階で示す「噴火警戒レベル」の判定基準を公表するなど、災害情報の発信を強化してきた。しかし、基になる噴火予測の技術一つ取っても発展途上にある。

 火山本部には、政策立案を担う政策委員会と火山活動を評価する火山調査委員会を置き、ともに研究者が委員長に就いた。改正活火山法がうたう「住民や登山者の生命や安全を確保する」を肝に銘じ、気象庁、研究者や研究機関との連携体制を整えてほしい。

 御嶽山の噴火で指摘された数々の負の教訓は、積み残されたままである。

 何より観測体制が心もとない。111ある活火山のうち、24時間体制で空振計や監視カメラを使って観測する山は50にとどまる。設置場所や機器が不十分な山も少なくない。火山はそれぞれに特性が異なる。火山本部で危険性を中長期で評価するにしても、データがあってこそだ。優先順位をつけ、国の責任で観測網を整備すべきだ。

 火山研究者の不足は深刻だ。大学や研究機関が若手育成に取り組んで増やしつつあるが、100人程度に過ぎない。米国のように、溶岩が噴出した非常時に大勢の研究者を現地に送り込める状況にはない。また予測は精度がまだ低く、噴火メカニズムの解明など地道な研究を積み重ねるにはマンパワーが要る。長期的な育成と環境づくりの方針を早急に示してほしい。

 これらのためには政府予算の十分な確保が欠かせない。かつて国立大の法人化と運営費交付金の削減で、活火山の観測体制を縮小に追い込んだことを忘れてはならない。

 火山噴火は地震や豪雨と比べて頻度は高くない。だが、ひとたび大規模噴火が起きれば広範に火山灰が降り、交通や経済活動、社会への影響は甚大だ。鹿児島県の桜島や富士山に関わる研究者は、大規模噴火への警戒が要る時期に入ったと指摘しており、どこも人ごとではない。

 火山本部のモデルは、1995年の阪神大震災をきっかけに発足した文科省の地震調査研究推進本部だ。観測網を整備し、活断層の調査を進めた。自治体や国民に首都直下や南海トラフなど巨大地震の被害想定を示し、備えを啓発してきた役割は大きい。

 備えがない不意打ちだと、より大きな被害を生む。警戒感を高める一歩にすべきだ。

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