青木真也が感じた格闘技の向き不向き “弟子”の18秒一本負けに「人はやっぱり変われない」

青木真也【写真:徳原隆元】

中谷優我は「自分に負けた」

「人はやっぱり変われない」――。勝負の世界で突き付けられた現実に青木真也は堪えていた。ABEMAのドキュメンタリー番組『格闘代理戦争-THE MAX-』の準決勝が19日、都内で行われた。「TEAM青木真也」の中谷優我はトミー矢野にまさかの1R・18秒で一本負けを喫し敗退。監督・青木は何を感じたのか。(取材・文=島田将斗)

青木が今シリーズに推薦したのは「4歳で“闘魂ビンタ”を受けた」の触れ込みの21歳。バックボーンは柔道、大学に進学するタイミングでMMAを始めたが格闘家として致命的な弱点があった。

優しすぎること。修行のために皇治のジムを訪れた際には元K-1の平山迅と立ち技スパーリング。一生懸命だが、ローキックで心を折られ、下がってしまう。青木は同番組の初回放送から「(格闘技)向かないよね。勝負してない」と指摘していた。

準決勝ではこの心の弱さが如実に表れた。先にアクションを起こす作戦だったが、トミー矢野のタックルを受け、相手の勢いそのままに膝十字を極められ18秒で試合は終わってしまった。

試合後の控室。青木は次の試合(中村京一郎―ギレルメ・ナカガワ)を見ながら弁当を大きな口にほお張る。寝技に持ち込まれると圧倒的な不利な相手に対し自信をみなぎらせ戦う中村を見てうなずいていた。対照的だった中谷についてこう振り返る。

「簡単に言うとビビったから負けたんですよ。要は先手を取れなかったんですよ。自分が引いたから負けたんです。相手に負けたわけじゃない、自分に負けたんです」

最初に抱いていた不安要素が的中してしまった。

「すなわちどういうことかと言うと、俺がずっと言い続けてた『ファイトしないだろ』ってこと。なんでお前は戦わないんだ。自分で取りにいかないんだ。攻めにいかないんだっていうのをこれまで一貫して言い続けてきたんだけど、中谷はファイトできなかったんですよ。だから『あ……』って思った」

決して勝負できなかった中谷に怒っているわけでも失望するわけでもない。一生懸命に練習する姿を自分の目で見てきた。しかし、それだけでは勝てないのが勝負の世界。自らが試合をしたわけではないが、逆らいようのない現実に思わず天井を見上げる。

「ネガティブな感情じゃない。諦めるというか、安定感というか。人はやっぱり変われないんだなっていう現実だね。努力もしたし、すごく頑張った。それは認める。過程はすごく良かった。でも天が味方しないんだよね。攻めないから」

そして「『ファイトする』『頑張る』っていうのは言葉で教えられない。変えないといけないけど、変われないっていうのが現実だよね。脱却しようと頑張った、でもダメだった。これが堪えましたよね」と近くに座る中谷を横目に現実を噛みしめるように下を向いた。

番組が始まって1か月。「もう少し期間があれば……」と少々楽観的とも言える質問をこちらがすると、青木の表情は一瞬固まり「人をつぶします」とひとこと。

「見切りは早くないと。ダメなやつはダメ。そういう商売なんです。ダメなのにずっとしがみついてるやつだらけじゃないですか。プロとアマの差というよりも戦う人種かそうでないかですよ」と腕を組んだ。

続けて「持ってるやつはグラウンドできなくてもかまします」と食事をしながら見ていた中村とギレルメの試合を例に出す。

中村は寝技の技術では及ばない相手に打撃の勢いで圧倒。グラウンドの展開に持っていかせなかっただけではなく、ギレルメに不利な打撃をさせた。フラフラになった相手に最後はシャープな打撃をラッシュ、3R・KOしていた。

今年で41歳。青木がサバイブしている理由だ。

「なんで僕がおじさんで生きているかというと“かませる”からです。一応『コノヤロー!』って最初にいくから。それくらい自分をだませないとダメですよね」

約20年間、常に最前線で戦ってきた青木が「堪えている」姿に中谷は何を感じたのだろう。敗退する「TEAM青木真也」が残していったものは大きい。島田将斗

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