【4月21日付社説】高校生語り部事業/震災の教訓を考える契機に

 県教委の「震災と復興を未来へつむぐ高校生語り部事業」は、高校生に改めて震災を学び、自らの言葉で語ってもらう取り組みだ。教訓などの風化防止を目的としており、2021年度の開始から3年間で、延べ67校の生徒が「語り部」として学びを深めた。

 高校生語り部事業は、「総合的な探究の時間」などを使って震災学習を行う学校が実践校となる。授業に参加する生徒はそれぞれのテーマを設定し、東日本大震災・原子力災害伝承館の見学、被災経験者の講話を聞くなどして考えをまとめる。その上で県外の高校などとの交流を通じ、自分の言葉で学んだ成果を発表する。

 県教委によると、生徒から「震災についてあまり関心がなかったが、学んでみて語り継ぐことの意義を感じた」との声があったという。高校生は、震災当時を記憶している最後の世代となる。県教委は、生徒が震災を「自分ごと」と再確認する契機に位置付け、語り部事業により多くの高校の参加を呼びかけていくことが重要だ。

 語り部事業では、実践校の代表らが集まり、それぞれの取り組みを報告する交流会が開かれる。昨年度の交流会では、中間貯蔵施設にある除去土壌の最終処分の在り方から、被災した住民との対話や復興の現状などの各校の地元に根差した内容まで、幅広いテーマが語られた。

 本県の被災状況は、原発事故に目が向きがちだが、沿岸部の津波被害は甚大で、中通りでは土砂崩れの被害があった。会津地方では、震災の4カ月後に新潟・福島豪雨が発生した。県教委は、実践校間の交流や成果の共有を進め、高校生が同年代の取り組みを通じて、県内で発生した多様な被災の実情についても理解を深められるよう後押ししてほしい。

 語り部事業には主に高校1~2年生が参加するが、年を追うごとに震災を経験した年齢は低くなっていく。21年度の事業開始当初、参加した生徒は、小学1年生や幼稚園で震災を経験していた。本年度に参加する生徒は震災当時は未就園児で、震災を記憶する最後の世代のなかでも、記憶がよりあいまいな学年になる。

 近い将来、高校教育の現場で生徒だけではなく、教える若手教員も震災を経験、記憶していない状況は確実に訪れる。県教委は高校での震災学習について、被災した県民の体験などを聞いて学び、自分の言葉で語る現在の取り組みに続き、その内容を先輩から後輩へとつなぐ「語り継ぎ」の要素を加えていくことが求められる。

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