恩返し

 アスリートの取材を通して、何度も聞き、書いてきた言葉がある。「恩返しがしたい」。レベルの違いはあれど、多くの選手たちは指導者や家族ら支えてくれる人たちに感謝しながら、それを結果で返そうと練習に励んでいる▲19日、その一心で努力してきたカヌーの水本圭治選手(チョープロ)が、1枠のパリ五輪切符を懸けたアジア選手権に挑んだ。残念ながら4着に終わったが、その一漕ぎ一漕ぎは気迫に満ちていた▲岩手県出身の36歳。2012年に長崎県に採用され、以降12年間、長崎のために力を尽くしてきた。温厚な人柄で、スポーツに携わる多くの人から愛されてきた▲そんな彼とレース後に話をした。「五輪出場が恩返しだったんですが…」。何度も聞いてきたフレーズだが、ぐっときた。17年から彼を雇用しているチョープロの荒木健治社長の「長い間、長崎のために頑張ってくれた。ありがとうしかない」という言葉も心に染みた▲年齢的に考えれば、今回が最後の五輪挑戦。現在、その夢を絶たれた他競技のベテラン選手たちは続々と引退を表明している▲でも“地元思い”の彼は結果が出る前から、もう一つ恩返しを決めていた。「秋の国スポで少しでも力になりたい」。最後になるかもしれない「長崎の水本」をしっかり見届けたい。(城)

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