“夏の聖地”への合言葉 高校サッカー「目指せJヴィレッジ」

インターハイサッカー男子競技の福島固定開催の意義と高校サッカーの拠点としての将来像を語る林さん

 7月26日からJヴィレッジ(福島県楢葉・広野町)を拠点に開かれる全国高校総体(インターハイ)サッカー男子。県内での固定開催が決まった裏側には、日本サッカー協会(JFA)関係者の福島復興への熱い思いがあった。JFA副会長として県内開催に尽力した林義規さん(69)=東京都サッカー協会長=は福島が高校サッカーの聖地となることに期待を寄せる。「選手の間で『目指せJヴィレッジ』が合言葉になってほしい」と願う。

■インターハイ男子県内固定開催に尽力 JFA元副会長 林義規さん 69

 林さんは福島民報社のインタビューに応じ、今大会が福島県にもたらす意義などを語った。

 ―固定開催が福島県にどんな影響を及ぼすか。

 「大会期間中は5万人が訪れる想定で、経済効果も大きい。全国から選手が集うことで、福島・東北のサッカー人口が増え競技レベルが上がると期待している。冬の全国高校サッカー選手権大会は約50年前に開催地が関西から関東に移り、関東が高校サッカーの拠点となった。福島でも同様の効果があるはず。大学受験を理由に多くの3年生にとってインターハイが高校最後の大会となる。いずれは『目指せJヴィレッジ』が選手の合言葉になってほしい」

 ―都道府県持ち回りから、福島県での固定開催にかじを切った理由は。

 「大会が復興のシンボルになってほしいという思いが一番の動機。東日本大震災から数年後、JヴィレッジでJFAの会議を開いた。東京電力福島第1原発事故対応の前線基地となっており、ピッチには鉄板が敷かれていた。これを見たとき、もう駄目だと感じた。だが、被災地の皆さんの努力により、見事によみがえった。復活したJヴィレッジを会場として、多くの人が福島を訪れてほしいと思い、2019年から福島固定開催に向けて動き出した。福島固定開催は必ず日本サッカー界と復興のためになると確信している」

 ―福島への思いは。

 「(J2・いわきFCを運営するいわきスポーツクラブの)大倉智社長は暁星学園高監督時代の教え子。新しいことに挑む姿に刺激をもらっている。福島は風光明媚(めいび)で海産物や果物もおいしい。選手や観戦客に魅力を感じてもらうことも大事だ。復興を体感し震災の記憶と教訓を継承してもらいたい」

 はやし・よしのり 東京都江東区出身。早稲田大卒業後、1977(昭和52)年から母校の暁星学園高サッカー部監督を務め、全国高校サッカー選手権大会とインターハイに22回の出場を誇る強豪校に育て上げた。日本サッカー協会副会長を2020(令和2)年から今年3月まで務めた。全国高体連サッカー専門部技術委員長なども歴任し、Jリーグクラブのユースチームと高校がリーグ戦で競う高円宮杯JFAU―18プレミアリーグ・プリンスリーグの創設にも貢献した。

■浜通り開催の意義 3年かけ全国で力説

 インターハイサッカー男子競技は毎夏、都道府県の持ち回りで開催されてきた。近年は、夏場の深刻な暑さや過密日程が課題に上がっていた。

 JFAは2019年ごろから涼しい場所での固定開催を模索し始めた。いくつかの候補地が浮かんでは消える中、JFAが運営に参画するJヴィレッジをはじめとする福島県の浜通りが浮上した。

 当時JFA副会長を務めていた林さんには震災、原発事故の発生前、日本代表や各国代表が合宿を張ったJヴィレッジの世界基準のピッチが頭にあった。原発事故対応の前線基地として活用されていたが、いずれは、この地を全国の高校サッカーの聖地にしたい、との思いを強くした。多くの人の力でJヴィレッジは2019(平成31)年4月に復活を果たし、20日で全面再開5年となった。

 新型コロナウイルスの感染が拡大する中、全国高体連本部、各都道府県のサッカー協会や高体連を訪ね、福島県での固定開催の意義や利点を力説して回った。ピッチ数が多く柔軟に試合を組めるほか、Jヴィレッジには宿泊施設や照明設備が完備され、炎天下を避けた朝や夜の試合開催も可能だった。3年かけて全国各地をくまなく回った。福島県の高体連やサッカー協会で講演し協力を依頼。2021(令和3)年、大会を主催する全国高体連が福島県固定開催を決定した。

 インターハイ競技の固定開催は和歌山市で行われるセーリング競技以外、例がなかった。慎重な声もあったが、林さんは丁寧に説明を尽くすことで道を切り開いた。

■7月26日開幕

 インターハイサッカー男子競技は7月26日、Jヴィレッジで開会式を行う。

 27日からJヴィレッジを中心に楢葉町総合グラウンド陸上競技場、広野町サッカー場、いわき市のハワイアンズスタジアムいわき(いわきグリーンフィールド)、アロハフィールド(21世紀の森公園多目的広場)の5会場で試合を行う。8月3日にJヴィレッジスタジアムで決勝を行う日程。

 全国から52チームが集い、福島県からは代表枠と開催地枠で2校出場する予定。

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