【鳴門ボート・PGⅠマスターズC】田原成貴氏「菊地孝平選手が〝もう俺たちの時代〟とばかりに燃えていると思う」

菊地孝平

ボートレース鳴門のプレミアムGⅠ「第25回マスターズチャンピオン」は21日、優勝戦が行われる。今年も百戦錬磨のレーサーたちは〝ベテランの味〟を感じさせるレースで激闘を演じ、選ばれし6戦士が出揃った。ボートレースファン歴46年の元天才ジョッキー田原成貴氏(65)は5日間のレースをじっくり吟味したうえで1号艇・菊地孝平(45=静岡)を本命◎に指名した。

【田原成貴氏が熱く語る】半世紀近くボートレースを見てきた私にとって、マスターズは魂が揺さぶられる大会だ。勢いある若者の粗削りなターンも魅力ではあるが、やはり古豪たちによる妥協なき進入争い、レースの駆け引きは見ていてゾクゾクする。特に今回の舞台・ボートレース鳴門という名称を聞くと、私は「渦潮」よりも先に中道善博さん(引退)を思い出す。鳴門の水面を見ていると中道さんの往年の姿が脳裏をかすめ、そのいぶし銀のイメージがマスターズという大会と実にマッチする。そのため今回はいつも以上に郷愁に浸りながら水面の戦いを眺めている。

さて、5日間が終わって絶好枠を得たのは菊地選手。今回が初めてのマスターズ出場、つまりマスターズルーキーだ。昨年覇者の井口佳典選手も同様だが、とにかく例年のようにマスターズ初参加組の活躍が目立つ。これは彼らの「意地」であろうと私は思う。現在、45歳の菊地選手は参加メンバーの中で最も若い世代。これは私の勝手な憶測だが、彼らは心の奥底では「オレはまだここを走るような存在じゃねえ!」「引退間際のジジイたちに負けてたまるか!」を思っているのではないか。

騎手時代の私も同じような気持ちになったことがある。ちょうど脂の乗り切った年齢の頃、ひと回りも年の差がある先輩ジョッキーに対して尊敬の念こそ抱いていたが、その一方で「もう俺たちの時代だ」「引導を渡してあげますよ」とメラメラ燃えた。もちろん菊地選手はデリカシーのある男だ。心の中でそんなことを思っていても絶対に口には出さないだろう。しかし、そういった野心がレーサーを突き動かす原動力になることはままあるのだ。

考えてみると面白い。数十年前であれば、今回と同じメンバー構成の中で菊地選手らの世代は「若造扱い」をされていた。その時は先輩レーサーたちが「ヒヨっ子レーサーに負けてたまるか」と意地になったが、年月が経過すると逆転現象が起きるのだ。これは一般社会、サラリーマンの世界でもあるかもしれない。脂が乗った40代たちは、入社当初に若造扱いをした先輩に対して、逆に「今は俺の時代だ」と息まく。そんな世の常を体現しているのが〝ボートレースのマスターズ〟なのだろう。

Vへ王手をかけた菊地選手。もちろん意地だけでなく、エンジンの仕上がりも最高潮だ。艇界屈指のスタート力も健在で、今大会もキレキレのスタートを決めている。準優もほれぼれするようなトップスタート。いったい彼のS勘はどうなっているのだろうか。優勝戦も菊地選手に全幅の信頼を置きたいと思う。マスターズルーキーとして、堂々と栄冠を手にしてほしい。

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