「日本代表監督はどうですか?」直球質問に広島のスキッベ監督は何と答えたか「今の自分にとって一番大事なのは...」

サンフレッチェ広島のミヒャエル・スキッベ監督が、35年以上もの長きにわたってドイツ、トルコ、スイス、ギリシャ、サウジアラビア、日本で指導に携わってきたことは周知の事実だろう。ドイツ代表で2002年の日韓ワールドカップを経験し、ギリシャでも代表チームを率いていたのだから、代表の指揮官としても十分に働けるはずだ。

今の日本代表は森保一監督が率いている。2018年夏に就任した森保監督は、2022年カタールW杯のアジア最終予選で大苦戦を強いられ、一時は崖っぷちに追い込まれたが、W杯本大会でドイツとスペインを撃破したことで、4年間の続投を勝ち取った。

あれから1年半が経過し、森保監督は今も2026年北中米W杯に向かい続けているが、「代表監督というのは、いつどうなるか分からない仕事」と口癖のように言う。万が一の事態が起きた時、あるいは2026年W杯後に「スキッベ監督を後任に据えたらどうか」という機運が起きてもおかしくないだろう。

「森保さんの後の日本代表監督はどうですか?」とドイツ人指揮官にストレートに問いかけると、彼は「フーッ」と息を吐きながら、困ったような表情を浮かべ、少し思いを巡らせながら、口を開いた。

「今の自分にとって一番大事なのは、次の試合です。未来を語ることよりも、目の前にある課題を一つひとつ、クリアしていくことが何よりも大切なんです。もちろん森保さんとはよく顔を合わせますし、情報交換もしています。彼のやっている仕事に対して、私は心からリスペクトを払っています。

個人的には、サッカーを抜きにしても日本が好きだし、日本にいることをとても幸せに感じます。サンフレッチェやサッカーのみならず、国民性や土地にも感銘を受けています。まず人々が本当に親切ですよね。欧州とはまた違った優しさを感じています。町もキレイですし、日本の方が優れているところが数多くあると強く感じる日々ですね」

自身の先々のキャリアへの言及を避けるのは、現役Jリーグの監督としてはある意味、当然のこと。今は広島のタイトル獲得に全身全霊を注いでいるのは間違いない。

広島は森保体制だった2012、2013、2015年にJ1王者に輝いているが、それから6年間、タイトルから遠ざかることになった。その後、スキッベ体制1年目の2022年にルヴァンカップを制し、ようやく1つ目のカップを掲げることができたが、リーグ戦の方はまだ手が届いていない。

2024年シーズンは開幕からJ1初昇格のFC町田ゼルビアがロケットスタートを見せ、昨季王者のヴィッセル神戸や同2位の横浜F・マリノスが出遅れるなど、「本命不在」の大混戦状態になっている。

広島は9試合を終えた時点で、4勝5分の無敗。失点はわずか「5」と堅守が光っているが、勝ち切れないゲームがあるのも確かだ。この現実をどう打開し、勝点3を積み重ねられる状態を作っていくのか。指揮官のマネジメントを含め、今後の戦いが興味深いところだ。

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「今のサンフレッチェを見ると、最終ラインの佐々木翔と塩谷司の両DFが素晴らしいパフォーマンスを見せています。彼らから良いパスが前線に供給されるからこそ、攻撃の迫力も増していくんです。

マコ(満田誠)や大橋(祐紀)、(加藤)陸次樹のように複数のポジションをこなす選手たちが機能するのも、最終ラインが安定しているから。まあ(大迫)敬介は1つのポジションしかやらないですけど(笑)。敬介も今季は非常に高いレベルを維持していると思います。

塩谷は今、35歳ですけど、40歳くらいのプレーをしていますよね。もっと走れるのに走らないというのかな(苦笑)。ただ、メリハリをつけながら自分のストロングを出すことには長けています。佐々木もセットプレーなどで得点を取ってくれています。そういった長所がもっと出るようになれば、より安定した戦いができると前向きに考えています」

スキッベ監督が佐々木と塩谷に絶大な信頼を寄せている通り、この2人が怪我なく、コンスタントにプレーし続けることが、リーグ優勝の最重要ポイントかもしれない。荒木隼人が離脱している今、中野就斗や新井直人がうまくカバーしているのは朗報だが、やはり経験豊富な佐々木と塩谷は不可欠な戦力なのだ。

昨季も塩谷と満田、ピエロス・ソティリウの主力3人が離脱した5~7月に6敗という苦境に直面している。そうならないように、今から対策を講じておくことも必要だろう。

4月13日のアビスパ福岡戦(8節)を見ても、ここまで出番が限られていた越道草太や志知孝明、小原基樹らを起用。17歳でプロ契約を締結した2023年U-17W杯メンバーの中島洋太朗もベンチ入りさせるなど、先を考えたマネジメントをしていることがよく分かる。

広島は神戸や浦和レッズのようにビッグマネーを投じてエリート選手を集められるクラブではない。だからこそ、それぞれの最大値を引き出すように仕向けなければ、頂点に立つことはできない。

スキッベ監督は「ウチにはスーパースターしかいないですよ(笑)」と冗談交じりに話していたが、限られた資金力と戦力で上を目ざしていく仕事は、指導者として大いにやりがいがあるに違いない。

かつてドイツサッカー連盟でフィリップ・ラームやバスティアン・シュバインシュタイガーらを輩出する種まきをした指揮官は、中島ら次世代の若いタレントも引き上げてくれるはず。彼らが「ミスをしても構わない」というメッセージを受け止め、アグレッシブに突き進むようになれば、選手層はさらに厚くなる。

そのうえで、満田や川村、大迫らが日本の看板選手に飛躍し、大きく羽ばたいてくれれば理想的。半年後の広島がどの領域まで到達しているのか。それを楽しみにしつつ、指揮官のチーム強化や采配を慎重に見つめていきたい。

※このシリーズ了(全3回)

取材・文●元川悦子(フリーライター)

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