夫103歳、妻95歳 助け合い薬店営む夫婦 共に歩み70年…あす「よい夫婦の日」 長崎

約70年間薬店を営む繁三さん(左)、恵美子さん夫婦=長崎市富士見町

 長崎市富士見町の一角にたたずむ小さな薬店。秋山薬品の文字が入った回転看板が目印だ。店に入ると同時にチャイムが鳴り、奥から秋山恵美子さん(95)がゆっくりと出てきた。続いて繁三さん(103)もつえをついて出てくる。共に歩んで約70年。2人仲良く薬店を営む近所で評判の「おしどり夫婦」だ。4月22日は「よい夫婦の日」。
 2人はふたいとこ。初めて会ったのは1946年、繁三さんが25歳、恵美子さんが17歳の時だった。終戦後、台湾から引き揚げてきた恵美子さん一家は、雲仙市吾妻町の繁三さんの実家の物置に半年間、身を寄せた。大村市の陸軍病院の放射線技師だった繁三さんは、休みの日によく実家に帰ってきていた。「歳も離れているし大人だった。あのころはあまり話した記憶がない」と恵美子さん。それから9年後の55年2月、繁三さんの兄の勧めもあり、2人は結ばれた。
 当時、調剤師の資格を持ち、長崎市住吉町の薬局で働いていた繁三さん。同年4月、独立して秋山薬品を開業した。それから約70年、24時間365日、2人で過ごす。「子どもが熱を出した」と夜中に母親が駆け込んで来た時は、繁三さんが冷静に対応して薬を販売したこともあった。
 今はお客さんの大半が近所の常連さん。耳が遠くなった繁三さんに代わり、恵美子さんが接客をする。「あれから体調はどがんですか?」。一人一人に声をかける恵美子さんを、椅子に座った繁三さんが優しく見守る。

記者がカメラを構えると、恵美子さんが繁三さんの髪をくしでとかし始めた=長崎市富士見町

 店を営む上で決めた2人のルールは「お客さんの前では、けんかや言い争いをしないこと」。これが夫婦円満の秘訣(ひけつ)。「今までたくさん助けてくれたね。ありがとうね」。恵美子さんが繁三さんの耳元でこう伝えると、繁三さんは「昔のことはよう覚えとらん。でも、よう養ってくれた」と照れながら言った。
 「かっこよく写らんばけんね」。写真を撮ろうと記者がカメラを構えると、恵美子さんがこう話しかけながら、繁三さんの髪をくしでとかし始めた。
 「俺は今、何歳になったとかね?」
 「もう103歳たい!」 2人の笑い声が店内に響き渡った。

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