「自然界隈」に「天使界隈」…なぜ今「界隈」が多用されるのか オタク文化とSNS社会との関連性を解説

『Popteen』2023年6月号の無料WEBマガジンでは「天使界隈」を特集 ※画像は『Popteen』の公式インスタグラム『@ popteen_official』より

「美容界隈」「自然界隈」「天使界隈」――この数年、頻繁に目にするようになった「界隈」という言葉。

ファッション雑誌の編集者が話す。

「”美容界隈”とは、その名のとおり美容好き、美容に関心の高い人たちのこと。”自然界隈”は、山や川や海、公園といった自然スポットを好む人たちです。”天使界隈”は、天使をイメージしたファッションやメイクを好む若者で、水色のアイテムや白・グレーを基調としたファッションの”水色界隈”から派生したとされています」

界隈という言葉そのものは昔から存在するもの。本来は”渋谷界隈”のように”そのあたり一帯”の場所を指し示す表現で、やや古めかしい言い回しでもあった。しかし、近年はジャンルや業界、コミュニティなどを指す表現として復活。特に、若者を中心に、趣味嗜好に応じたゆるいコミュニティを意味する言葉として定着しているという。

若者研究の第一人者として知られるマーケティングアナリストの原田曜平氏が解説する。

「インターネット上では2000年代から使われていた表現で、“○○のファン”“〇〇が好きな人”といった意味での使用法も10年以上前からありました。“ジャニーズ界隈”“歌い手界隈”といった感じですね。主にオタクの間で使用されていたものがSNSの普及に伴って広がり、この数年でメジャーになったという印象です」(原田氏)

”オタク界隈”の言葉が市民権を得たというわけか。

「実際、オタク文化の急激な拡大が“界隈”という言葉が広がった大きな理由だと思いますね。いまやNHKですら“推し活”という言葉を放送番組内で当たり前に使いますが、“推し活”という表現が一般化されるのに伴い、〇〇界隈という表現も広がったのではないでしょうか。

界隈という言葉の認知度拡大という意味では、新宿東宝ビル周辺にたむろする“トー横キッズ”の問題が21年頃から社会的に注目を集めたなかで、“トー横界隈”という表現が浸透したことも影響したかもしれません」(前同)

〇〇界隈という表現が広がった背景には、SNS社会の影響も大きいと原田氏は指摘する。

「#○○界隈とハッシュタグをつけて発信するだけで、自身がどの界隈に属しているかがわかります。これはSNSによって人間関係が過剰に広がっているなかで、つながっている人に認識してもらうのに便利、というのがあるのかなと思います。

界隈ごとに特徴やイメージは大きく異なるので、“〇〇界隈に所属している”というだけで大まかに自分がどんな人かを相手に伝えることができ、覚えてもらいやすいというわけです」(同)

■”界隈消費”とは Z世代の消費行動もキーワードは”界隈”

注目を増す「界隈」という言葉。近年では”界隈消費”が企業マーケティングを行なう上で、1つのキーワードにもなっているそうだ。

“界隈消費”とは、Z世代に特化したマーケティングチーム『SHIBUYA109 lab.』が提唱した考えだという。趣味やカルチャーなど、共通の好きなもの・関心事を持つ人同士によるコミュニティである“界隈”ごとにトレンドは異なるが、ひとつの界隈で高い熱量で支持されたトレンドが他の界隈にも伝播するというZ世代の消費行動を表したものだ。

「界隈は、“他界隈”といった言葉が象徴的なように、界隈の中のことか外のことかで区別を付ける傾向があり、内輪の団結感が強い。そのため界隈内で流行るものやオススメされるものは、その界隈に属する人にとっては、一般的なマスメディアからの情報と比べて信頼ができ、リアリティがあるんです」(前出の原田氏)

この内輪の団結感が、Z世代にとっては重要なのだという。

「“私たちしか知らない”という特別感も演出されます。そして、ひとりの人が複数の界隈に属していることは一般的なので、そういう人のクチコミを介して別の界隈にも広がる。Z世代は恋愛や就職に限らず、消費も“失敗したくない”傾向があると言われますが、共通の趣味や価値観を有する界隈内からの情報なら信頼できるし、界隈内で楽しむというところに特別感を持てるのでしょう」(前同)

分析・分類が好きなZ世代にとって「#〇〇界隈」という自己紹介はもはや当たり前なのかも。

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