サプリ問題で揺らぐ「麹」への信頼…だが、麹のプロは言う。みそやしょうゆに欠かせない日本の麹と紅麹は「種類が違う。安心して」

「麹には人間にいい菌が集まる。愛の微生物と呼んでいます」と語る河内源一郎商店の山元正博代表取締役=鹿児島県霧島市溝辺

 小林製薬(大阪市)の紅麹(こうじ)サプリメントを巡る健康被害が全国で報告されている。「麹」はみそやしょうゆ、焼酎を生み出し、日本人の食生活に深く関わってきた。焼酎用種麹で国内8割のシェアを持つ河内源一郎商店(鹿児島県霧島市)の山元正博代表取締役(74)は「日本の麹は紅麹とは種類が違う。日本人の友達のような存在」と語る。

 「麹」は、麹菌を米や麦などの穀物に付けて繁殖させたもの。麹菌は日本に古くからいるカビの一種で、タンパク質や糖を分解する酵素を持ち、アスペルギルス属に分類される。

 和食を支えるみそ・しょうゆ、焼酎、日本酒は材料や工程に違いはあるが、麹と原料を混ぜ発酵させる点は同じだ。酵素が複雑なうま味やアルコールを引き出し、日本人の味覚を育んできた。

 農学博士でもある山元さんによると、日本の麹菌は大きく分けて「黄」「白」「黒」「しょうゆ」の四つ。白麹は、山元さんの祖父・河内源一郎氏が沖縄の泡盛を造る黒麹を研究する中で発見した。醸造以外でも、本枯れ節のカビ付けに使われるのはアスペルギルス属だという。

 白麹や黒麹など5種類を手がける河内源一郎商店では、蒸し米から5日かけて麹を造る。乾燥した菌を種麹として、酒造会社などに出荷。その種麹を利用して、芋焼酎や黒糖焼酎、しょうゆなどが造られる。

 麹造りは厳格に管理されている。繁殖に使う水や空気は滅菌し、黄色ブドウ球菌など有害な菌が混入していないかサンプル検査を繰り返す。少しでも混入が疑われれば廃棄する。

 山元さんはこれらアスペルギルス属の麹を「愛の微生物」と呼ぶ。「乳酸菌など人体に有効な菌と仲が良く、毒を生む菌は付け入る隙がない」からだ。

 一方、紅麹菌はモナスカス属に分類される。山元さんは「動物に例えると、犬と猫ほどの違いがある。そもそも紅麹菌は、日本の自然界にはほとんどないと考えられる」と話す。

 紅麹が使われるのは主に中国や台湾。気温が高い地域で酒造りなどに使われ、香りや甘みを引き出す。食品の腐敗を防いだり、軟らかくしたりする技法もある。沖縄の珍味「豆腐よう」もその一つだ。

 国内では、紅麹の色素を応用して着色料として使われることも多い。日本食品添加物協会(東京)は、「ベニコウジ色素(モナスカス色素)」は国が使用を認めた着色料であり、小林製薬の「紅麹原料」とは大きく異なるとのメッセージをホームページで発信している。

 創業93年の河内源一郎商店で紅麹は製造していないが、過去に企業に作り方を教えたことがあるという。「先代(父・正明氏)の頃で着色料用だったのでは」と山元さん。「父から、紅麹は作るのに時間がかかり大変だと聞かされた。時間と手間がかかる分、余計な物質が入るリスクも高くなる」と語る。

 「紅麹」サプリメントの問題発覚後、同社にも麹の安全性に関する問い合わせが相次いだ。山元さんは「日本人は昔から、みそやしょうゆなど麹が育む発酵食品の効果を享受してきた。これまで通り安心して使ってほしい」と呼びかけた。

サンプル検査に抽出された黒麹(左)と白麹。米の表面に胞子がびっしりと生えている

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