ベヒシュタイン・ジャパンの社長に聞いた「世界三大ピアノ」の音の違いと趣味としてのピアノの魅力

名だたるアーティストが愛用(C)日刊ゲンダイ

ベヒシュタイン・ジャパン 加藤正人社長

スタインウェイ、ベーゼンドルファーと並ぶ世界三大ピアノの一角を占めるベヒシュタイン。クラシック音楽界だけでなく、ポール・マッカートニーやフレディ・マーキュリーら数多くのポップスターにも愛用される名器だ。そのベヒシュタインを日本で販売するベヒシュタイン・ジャパンの加藤社長に、ピアノを取り巻く奥深い世界について語ってもらった。(前後編の【後編】)

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【Q】三大ピアノの音色の違いを教えてください

ドイツのベヒシュタインは立体的な音が特徴で、低音から高音まで各音域のバランスが良く、音の輪郭がはっきりしているのが魅力です。オーストリアのベーゼンドルファーは優雅で上品な音色が持ち味。中音域が豊かで、なめらかな音の広がりが感じられます。アメリカのスタインウェイはパワフルで芯のある音が特徴。音に迫力があり、演奏者の表現力を存分に引き出してくれます。どのピアノにも個性がありますが、自分の好みに合った音色を探すのも楽しみのひとつですね。

【Q】なぜベヒシュタインはポップスターに人気なのでしょうか?

ベヒシュタインのピアノは、繊細で表情豊かな音色が特徴です。歌を引き立ててくれるような伴奏に適しているんです。ポップスの作曲家は、ピアノで弾き語りをしながら曲を作ることが多いので、歌いやすく演奏しやすいピアノが求められます。ベヒシュタインは音の輪郭がはっきりしているので、歌のメロディーラインを際立たせることができるんですね。

愛用者で最も有名なのはビートルズのポール・マッカートニー。ホワイト・アルバムのピアノの音はベヒシュタインです。イギリスのロックバンド、クイーンのボーカル、フレディ・マーキュリーもベヒシュタイン愛用者でした。最近ではレディー・ガガの録音でベヒシュタインを使っています。日本の忌野清志郎さんも、ベヒシュタインのアップライトピアノをご自宅のプライベートスタジオに置かれていました。がんになられて、復活コンサートを武道館で開催した時は、フルサイズのグランドピアノを貸し出しました。

仕事帰りにふらっと立ち寄るサラリーマン

【Q】趣味としてピアノを始めるにはどうすればいいですか?

まずは好きな曲を弾きたい、という気持ちを大切にすることですね。ユーチューバーの影響もあって、今は楽譜が読めなくても耳コピで弾く人が増えています。実際当社のショールームでも、仕事帰りのサラリーマンの方がふらっと立ち寄って弾き始める、なんてこともあります。最近はシニア層の男性の入門者も増えていますよ。

ピアノ教室に通うのもいいですし、まずは練習室を利用してみるのもおすすめです。電子ピアノなら自宅でも練習できますしね。肝心なのは「良い音色」に触れること。ヨーロッパの楽器は「遊び」のニュアンスが強いので、まずは気軽に楽しんでもらえたらと思います。思いきって購入しても、ピアノはメンテナンスをしっかりすれば100年以上使い続けられます。今のSDGsの考え方を体現する楽器だといえますし、費用対効果を考えても決して高すぎる買い物ではないと思いますよ。

(聞き手=いからしひろき)

▽加藤正人(かとう・まさと)1963年、岐阜県多治見市生まれ。国立音楽大学で調律を学び、ドイツに渡って「ピアノ製作マイスター」の資格を取得。帰国後、タイヨー・ムジーク・ジャパン(現ベヒシュタイン・ジャパン)入社。2017年から同社代表取締役社長を務める。

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