「死ぬまで働く。それが本望」101歳の現役自転車職人、生きがいは“仕事後の一杯” 年金受け取りながら働くシニア世代の現実

“人生100年時代”と呼ばれる現代は、年金を受け取りながら働くシニアの姿も珍しくない。働く理由は生活や健康のためなど様々。加齢の影響と付き合いながら、シニア世代はどのような仕事を選び、何歳まで働きたいと考えているのか。シニア世代のリアルな声を調べてみた。

若者世代の理想「50歳ぐらいで…」

働く中で、多くの人が一度は想像するリタイア後の人生。街を歩く若い世代に何歳まで働きたいか話を聞いてみると、さまざまな理想があった。

歯科衛生士・女性(21歳):
希望は50歳ぐらいでやめたい。それ以降はもう家でゆっくりしたいです。

大学生・女性(20歳):
50歳手前でやめたい。(それ以降は)ゆっくりのんびり暮らしたい。

日本語学校を卒業したネパール人女性:
ネパールではだいたい50歳まで働いて。旅行。イタリアとかアメリカとか旅行したいです。

インタビューした若い世代からは、50歳前後で働くのを止めるのが理想とする声が多く見られた。旅行など具体的な“理想のリタイア生活”を夢見る人も少なくない。

しかし、最近は定年後も働くシニアの姿は珍しくないことだ。街を歩くシニアに働く理由を訪ねてみると、リアルな現実が見えてきた。

シニア世代“年金だけで生活無理”

まずは、クリーニング関係の仕事に勤める76歳の女性に話を聞いた。週5日で1日2~3時間働いており、月に6~7万円の収入を得ているという。

女性(76歳):
年金だけで生活することはとてもできませんよ。都営(住宅)に入っているから家賃も払わなきゃいけないし、私ぐらいの年代ではみんな働いてますよ。自分の体が続く限りは自分ではその気持ちでいますね。

76歳の女性の働く理由は“生活のため”。年金だけで生活するのは現実的に難しく、生活のために働かざるを得ない同世代は多いと語っていた。

一方、1日2時間半、週3日のペースで清掃の仕事に勤める80歳女性。1人暮らしで家賃は月5万円だという。

女性(80歳):
生活のためでしょ。物価は高くなるし、家賃は高いし、私の生活どうするのって考えながら泣いてますよ。

女性は80歳を超えても、生活のためには体が動く限りは働き続ける意向だと語った。

また、1日2時間、週5日マンションの清掃をしている80歳男性も、働く理由は同じく“生活のため”だ。5~6万円の月給では、年金と合わせても6万2000円の家賃を払えない月があると語った。

男性(80歳):
(家賃の)引き落としに間に合わなければどこかから借りてくるか、友達から借りたり…。働きたくて働いてるわけじゃなくて、食べなきゃ死んでしまうからね。

シニアたちにとって「生活のために働く」ということは若い世代と同じく、リアルな日常なのである。

「半年間毎日ハローワーク」再就職に壁

シニアにインタビューを続けていくと、新たに分かったのが職探しの難しさだ。高齢化社会で働きたいシニア世代が増える一方で、シニアを人材として採用する会社は多くない。

とあるスーパーで調理の仕事をする66歳の女性は、仕事探しの苦い思い出を語った。

66歳 スーパーで調理を担当:
シニアが仕事探すのは大変です。(面接に)行っても、みんな(求人に)年齢書いてないじゃないですか今。だからいいみたいな顔をして、結局は(不採用)もう本当に5~6件断られて…。

また、77歳で清掃の仕事を2つ掛け持ちしている女性も、職探しは困難だったと話す。

77歳 清掃2カ所を掛け持ちする女性:
2件目はハローワークで自分で(見つけた)。最後に残されたとりでで。半年間毎日(ハローワークに)行ったので大変でした。

この女性のように、シニア世代は様々な観点から採用が見送られることも珍しくない。本人に働く意思があっても、働き口を探すこと自体が一苦労なのだ。

狙い目はマクドナルド!?

では、シニア世代が働きやすく、人材として選ばれる職はどういったものなのか。

「ハローワーク渋谷」主催のシニアが就職活動を学ぶセミナー「せたがや65セミナー」では職員がこう説明する。

ハロワーク職員:
ハローワークで一番希望者が多いのが事務の仕事。だからはっきり言ってライバルは多いです。駅から遠くてちょっと給料が安いなんていう事務は狙い目です。

中でも狙い目だという仕事について、職員は話を続けた。

ハロワーク職員:
シニアの方、調理補助。何が決まっているかというと、マクドナルドの仕事。(シニアは)朝も入ってくれるし、昼も入ってくれるし、(学生や主婦が少ない)午後2時から午後5時も入ってくれるし、テストもないし帰省もしないので、シニアの方っていうのは本当に需要があるんですね。

シニア世代は生活が落ち着いており、スケジュールに自由が利く人が多い。その強みを活かし、柔軟にシフトに入れるシニア人材は選ばれやすいという。

そこで“シニアの強み”を活かして働く人を探してみると、とある人気飲食店で働くシニアの姿があったーー。

病を乗り越えて輝くシニア

東京・品川駅の港南口にある「マクドナルド品川港南口店」で、元気に来店者を案内していたのは灰田智香さん(78)。若い世代に混じってしなやかに働くシニア世代だが、実は他の店員とは少し役割が異なるようだ。

灰田智香さん(78):
「おもてなしリーダー」という形で、マクドナルドの仕事をさせていただいております。

「おもてなしリーダー」は一見すると仕事の想像がつかない。そこで実際に灰田さんが働くところを拝見してみると、経験豊富だからこそできる仕事ぶりが垣間見えた。

灰田さんは客が来店すると歩み寄り、丁寧に席へと案内。椅子を引いて客を助ける姿もあり、他の店員では中々行き届かない“おもてなし”に注力しているのがわかる。

また、注文の品が出来上がると、店内の客に素早く届ける姿もあった。外国人の客には流暢な英語で接客する姿も見せ、様々な気遣いを欠かさない。

灰田智香さん:
Is that yours?(あなたのものですか?)

外国人客:
アリガトゴザイマス。

若い世代に負けず劣らずテキパキと働く灰田さんは、実は元キャビンアテンダント。さらにビジネスマナー講師や大学の非常勤講師を務めた経験もあり、まさに接客のプロと呼べるシニア人材だったのだ。

訪れる客に78歳で働く灰田さんについて聞くと、はつらつとした働きぶりに来店者の多くが感心している様子だった。

20代客:
若いですよね。
めっちゃ若い。自分のおばあちゃんより若い!元気ですよね。
尊敬します。

そんなバリバリに働く灰田さんも、マクドナルドに勤める以前は体調に悩んでいたという。

灰田智香さん:
私、体調がよろしくなくて、(膝の)手術をした後で、ちょっと気持ちがふさぎ込んでおりまして…。

そんな時、客として来店した灰田さんにマックでの仕事を勧めたのが、同店に勤める女性クルーだ。当時、声をかけた女性クルーは、灰田さんの人柄に惹かれたと話していた。

声をかけた女性クルー:
いっしょに仕事してみたいなって感じたのでお声がけをさせていただいて「マクドナルドは80代とか90代の方もいらっしゃるので」という話をしました。

すると、働き始めた灰田さんの体に思わぬ変化があったという。

灰田智香さん:
家でふさぎ込んでいると、どんどん歩けなくなる状態でありましたのが…マックさんで仕事という形で関わりをいただいてから歩けるようになったんです。

現在は夫と2人暮らしで週2日、1日2時間程度勤務しているという灰田さんに、何歳まで働きたいか尋ねた。

灰田智香さん:
「神のみぞ知る」でしょうか。自分自身の体力と気力があれば、なるべく続けさせていただけたらなと思っております。

101歳の現役自転車職人

一方、東京・墨田区の鐘ヶ淵では、101歳で働くシニアがいるということで、地元の人に話を聞くとーー。

60代:
自転車屋さん。すごいなと思いますけど。
77歳:
知ってます。昔から知ってます。すごいと思うよ100歳まで。

そんなベテラン自転車職人として地元の人に知られるシニアは、101歳の石井誠一さんだ。

石井さんは1922年5月、東京・神田の生まれで、14歳の頃に自転車屋さんで修業をはじめた。

27歳でお見合い結婚をして2人の子供をもうけた後、29歳で自分の店を開業して以来、地元で自転車職人を続ける大ベテランだ。33年前、奥さんが亡くなった後も店を続けてきたという。

朝型の石井さんは、午前4時には目が覚める。その後、朝8時に店を開けて、朝食を食べるのが日課だ。朝食を摂る姿は、ごく普通の“おじいちゃん”といった様子で働く姿を想像させない。

午後3時半頃、近所の人が自転車を抱えてやってくると、石井さんの表情が変わった。

石井誠一さん(101歳):
どうしたの?

お客:
前(タイヤのパンク)できる?

石井誠一さん:
できる?って商売だもん、できるよ。

依頼はタイヤのパンク修理。石井さんは自信に満ち溢れた様子で、自転車を軽々と持ち上げ、女性に20~30分で引き取りにくるように伝えた。

石井誠一さん:
俺に向かって「直せる?」なんてふざけたこと言ってるな。直せるに決まってるじゃねえか。

101歳が85年ぶりに“大技”

何十年も経験を積んだ職人にとっては、パンク修理は朝飯前だ。石井さんは手に馴染んだ工具を握り、手早く修理を進める。しかし、作業を進めていくとパンクの深刻な原因が明らかになった。

石井誠一さん:
「嫌だ。こんなところ(穴)開いてるよ。うぇ!」

ーーここだと(穴ふさぐ)パッチが貼りづらい? 石井誠一さん:
貼れませんこれ。貼ったって、すぐ剥がれちゃう。こっちが固い、こっちが柔らかい。すぐ剥がれちゃう。

穴が開いている部分は、チューブに空気を入れる入口付近の境目。境界部分の素材の硬さが異なり、パッチを貼って穴を塞ぐという一般的な修理では直せないという。

さらに、同じ規格の交換用チューブは在庫切れで、チューブ自体の変更もできない。石井さんは明後日のほうを見つめ、途方に暮れた様子だ。

しかし、石井さんはそこで諦めなかった。

思いついたように立ち上がると、サイズの異なる別のチューブを取り出し、チューブの同士の長さを合わせると、次の瞬間に思い切りよく切断した。切ったチューブをタイヤのサイズに合わせて繋ぐというのだ。

石井誠一さん:
85年ぶりだよ。昔はこれをよくやったんだよ。今のやつは知らねえ、こんなことは。“芋継ぎ”って言うんだよ、今こんなことやってるのいないよ。小僧時分(修業時代)に教わった。小僧時分。へへへ。

得意げに語る石井さんの手に迷いはなく、一つ一つの作業を丁寧に進めていく。

チューブにパイプをはめてゴムのりを塗り、パイプを外してひっくり返すと完成だ。

1時間以上かかったものの、水に沈めても空気漏れの様子はなかった。きれいに繋がる一本のチューブは、まさに101歳の年の功だからこそ成しえる職人技だ。

「死ぬまで働く。それが本望」

そんな石井さんの店には、近所の人が続々と訪れる。仕事が一段落したところで、近所に暮らす男性が息子を連れて来店した。

40代男性:
だいぶ元気そうじゃん。
石井誠一さん:
元気だよ。

気さくにやり取りをする様子は、まるで実際の家族のよう。男性に石井さんについて尋ねると、こんな言葉が返ってきた。

40代男性:
とてもいいおじいちゃんですね。自分が今の息子と同じぐらい、もっと下の時からお世話になってるんで。

石井さんに向ける男性の眼差しは、温かく優しい。仕事がなくても気遣い合う関係は、石井さんが築き上げてきた信頼関係を感じさせた。

また、同じ町会に所属する70代女性が石井さんの店に立ち寄る姿もあった。高齢で頻繫に買い物にいけない石井さんに、お裾分けをしているという。

70代女性:
卵買ってきたよ、卵。もうなくなるでしょこの間の。これで元気出して、115歳までがんばって。

町の人に支えられ、現役を続ける石井さんが閉店後に楽しみにしているのは晩酌の時間。好物の焼酎のホッピー割りで、仕事終わりの一杯を夕食と共にたしなむ。

ーー仕事終わりの一杯はいかがですか? 石井誠一さん:
ああ、いいですね、最高!晩酌やりたいために働いてるんだから。遊んでて飲んだってちっともうまくないもん。

そんな石井さんに101歳の今も働き続ける理由、そして何歳まで働きたいかと聞いてみた。

石井誠一さん:
健康のため、好きだから。この仕事が好きなんです。だからやるんです。(働くのは)はっきり言って死ぬまでね。死ぬのもこの店で仕事しながらぶっ倒れる。それで本望。

ただ老後を過ごすだけではなく、生涯現役を掲げる石井さん。仕事に誇りを持ち、死ぬまで働きたいと話す姿は若い世代に負けない活気があふれていた。

今回、働くシニアを「しらべてみたら」、様々な事情がありながらも、やりがいが満ちあふれていて日々働き続けているシニア世代がいることが分かった。
(「イット!」 4月13日放送より)

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