日本最古級のキング・オブ・名画座「高田世界館」に行ってみた 築113年の激シブな佇まいに感動…ここにしかない“空気”を堪能

劇場の入口には以前までの名称だった「高田日活」の看板も残る

日本で最も古い映画館のひとつとして、いぶし銀の存在感を放つ「高田世界館」をご存じだろうか。新潟駅から電車を乗り継ぎ、えちごトキめき鉄道の高田駅へ。高田世界館は、その高田駅から徒歩10分ほどの距離にある。今年で創立113年。国の登録有形文化財や近代化産業遺産に登録されており、実際に“本物”を目の当たりにすれば、映画ファンならずとも胸が熱くなること間違いなしの激シブ映画館なのである。

入口に掲げられた登録有形文化財のプレート

1スクリーンのみだが1階席140席、2階席35席の合計172席。なかなかの規模の映画館だ。設備だけでなく、城下町にある映画館ということもあり、外観、内観ともに目を見張るものがある。

「日本最古の映画館」の字が誇らしい
フィルム映写機がお出迎え
年季の入った入場券売場

創業当時は「高田座」を名乗り、大正5年には世界館、昭和42年にはテアトル高田…など合計9回も名称を変更してきたこの映画館。ご近所の住人に名称を聞くと、その人の生きた時代が分かるらしい。

500円を払えば、館内、時間によっては映写室まで案内してもらうことも可能だ。中央に構えるのはフジセントラル社1950年製造の映写機。火災防止用として床にはトタンが敷かれている。

黒澤明、小津安二郎…過去に上映された35mmフィルイムの企画上映

現在はほぼデジタル素材での上映が中心だが、最近は黒澤明監督の映画を35mmフィルムで上映したという。来場者からは「この映画館で観るからフィルム映画がより良いものに見えた」という感想もあったそうだ。

映写室のドア
映写室の様子(有料で見学も受け付けている※要予約)
映写室にあるフィルム映写機

せっかくの機会なので、実際に映画も鑑賞させていただいた。観たのは『フレディ・マーキュリー The Show Must Go On』(監督:フィンレイ・ホールド/2023年)。バンド「Queen」のフレディ・マーキュリーに焦点を当てたドキュメンタリー映画だ。

1階の中央からスクリーンを臨む
荘厳さを感じさせる天井の意匠

1階座席中央で拝見。もともとが舞台としても使用されていたこともあり、他の映画館にはない映像、音に包まれている感覚を覚えた。あのQueenの超有名曲が流れた瞬間は鳥肌が立った。これぞ映画館体験…とても贅沢な時間を過ごすことができた。

取材日は長年勤めたスタッフの最終出勤日。流暢なアナウンスが印象的だった。

“街の映画館”ならではのシーンにも遭遇した。上映前のアナウンスだ。シネマコンプレックスであれば、上映前の映像で諸注意などを行うが、ここは違う。受付スタッフが場内後方の音響設備を操作し、生の声でアナウンスを行っていたのだ。終了後はドアを閉め、場合によっては上映映像の操作もするという。都市部の映画館ではなかなか見られない光景だと感じ入った。

大盛況だった「ドライブ・マイ・カー」

支配人の上野迪音さん

そんな街の映画館「高田世界館」の上野迪音支配人に、映画館の今までとこれからについてお聞きした。

上野さんは学生時代からここ高田世界館で自主上映会を開催し、好評を博していたという。2014年から本格的に劇場運営に関わることになったそうだが、当初は失敗も多くあったという。

ロビーにある高田世界館ノート。全国からファンが訪れているのがわかる。

「前評判の良かった『ニュー・シネマ・パラダイス』の動員が良くなくて驚きました。学生時代の自主上映会では満席近く入りましたが、映画興行の難しさを痛感しましたね」

しかし、年数を重ねるにつれ、映画館の認知度が地域に浸透し、近年では『ドライブ・マイ・カー』(監督:濱口竜介/2021年)などは大動員を記録したそう。

今、力を入れているのはインド映画を中心とした“マサラ上映”という。

「インド映画好きのお客様は“嗅覚”が良い。文化に対する姿勢もすごいなと思います。当館のような名画座ともマサラ上映は相性が良く定期的に実施していきたい」

2階席には1階席にはない革製の椅子も設置されている
2階からの眺め

とにかく音楽映画が好きという上野さん。『ストップ・メイキング・センス』(監督:ジョナサン・デミ/1984年)も劇場でかけたい作品の一本だという。

上野さんは言う。

「高田世界館にふらりと来て欲しい。地域にとって、当館が“使い勝手の良い映画館”になってもらいたいと考えています。好きなように、好きな位置で映画を見てもらいたい。実際、1日2本観る方で、1階で見た後、2本目は2階で…という鑑賞をされる方もいます」

編成についてもお聞きした。

「人が入ると見込んでいた作品が入らなかったかと思えば、予想外に入る作品もある。古参の映画ファンに向けて日本の名画を上映したこともあったが、入らない。平日はどこの映画館もだと思いますが、シニアのお客様をターゲットにした編成になる。でも10年前に入らなかった作品が今、入ることもあります。お客さんと一緒に映画館が育つことが大事だと思いますね」

映画館の興行的にはコロナ禍を経て、動員自体は次第に戻ってきているという。映画館見学の動員も収入の大きな柱だというが、今後は継続のためのクラウドファンディングも計画中とのこと。

そんな上野さんは「高田世界館の仕事をしながらの生活はノンストレスですね」と笑う。自身の映画体験や、マサラ上映、音楽映画について、非常に楽しそうに話す姿が印象的だった。

高田の街を歩くといきなり現れる高田世界館。近隣には昔ながらの建物や最近では飲食店も増えてきたという。「街が動いている」そんな印象を受けた。築110年余りの映画館を直接見るだけでも価値がある。この映画館にしかない空気を全身で浴びながら映画を楽しんでみてほしい。

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高田世界館公式サイト
http://takadasekaikan.com

(まいどなニュース特約・宮本 裕也)

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