東南アジアは列強に食い込むか。評価急上昇中のインドネシアが見せる野心と実力

パリ五輪男子サッカー出場権がかかるAFC U23アジアカップ2024が今月15日に開幕した。日本、韓国が順調に白星を重ねてグループリーグ(GL)を突破する中で、インドネシアが番狂わせを見せた。

大会優勝候補のオーストラリアU23相手に1-0でアップセットし、GL突破の可能性を残した。今年開催されたAFCアジアカップでは同代表史上初となるGL突破を果たして注目を浴びている。ラウンドオブ16で対戦したオーストラリアには0-4で大敗したものの、弟分のU23チームが仇討ちしてみせた。

現在アジアの中で存在感を高めつつあるインドネシア代表の野心と秘められた実力に迫る。

インドネシア協会の狙い

昨年2月にイタリア1部の世界的強豪インテルの会長を務めたインドネシア人実業家のエリック・トヒル氏がインドネシア協会長に就任した。サッカー界でも著名なワンマン経営者が辣腕を振るい始めてからインドネシア代表は劇的な変化が起き始めた。

ベトナム紙『VN Express』によると、トヒル会長がFIFAに提出した計画に①世界ランキング100位以内に入る国際目標と、代表チームでプレーできる選手を少なくとも154人擁することを強調したという。つまりインドネシアにルーツを持つ欧米育ちの選手を加えて、短期間で目標を達成する野心を見せたのだ。

トヒル会長

インドネシアの人口は2億7753万人(国際連合人口部2023年統計)と世界で4番目の人口を有している発展途上国であり、国外労働者の数も相当数にのぼる。このインドネシア人の国外労働者は世界のサッカーに大きな影響を与えてきた。

ロビン・ファン・ペルシー、ジョバンニ・ファン・ブロンクホルスト、ロイ・マカーイ、ナイジェル・デ・ヨングといったインドネシアのルーツを持つオランダ人選手や、インドネシア系ベルギー人のスターであるラジャ・ナインゴランと、これまで欧州ではインドネシアのルーツを持つ選手たちがセンセーショナルな活躍を見せてきた。

トヒル会長就任後に欧州育ちのインドネシアにルーツを持つ選手たちを積極的に補強し始めた。

多重国籍強化の成果と課題

インドネシアはプレミアリーグ52試合、ラ・リーガ123試合出場のジョルディ・アマトが加わるなど、これまで新興国に加わってきた多重国籍選手の質が劇的に向上している。その成果もあってか、東南アジアの総合スポーツ大会である第32回SEAゲームズで32年ぶりに金メダルを獲得し、今年開催されたアジアカップではGL突破につなげた。

そしてアジアカップ後もDFネイサン・ジョー・アオン(オランダ1部ヘーレンフェーン)、DFジェイ・イツェス(イタリア2部ヴェネツィア)、MFトム・ヘイ(オランダ1部ヘーレンフェーン)、FWラグナル・オラトマンゴン(オランダ1部フォルトゥナ・シッタート)を新たに加えて、ワールドカップアジア2次予選に臨み、東南アジアの強豪であるベトナムとの2連戦を1-0、3-0と連破してみせた。

この補強で23歳のジェイ・イツェスは群を抜く活躍を披露。センターバックで出場したイツェスは守れば的確なポジショニングと優れたフィジカルでベトナムの攻撃をシャットアウトし、3月26日に開催したベトナム戦では先制点も奪ってみせた。今年で32歳を迎えたアマトのように全盛期を過ぎた選手もいれば、イツェスのようにセリエB昇格を繰り広げるヴェネツィアでレギュラーセンターバックを務める伸び盛りな選手を加えたことは大きかった。

ベトナム戦で優れた実力を見せたイェツス(右)

2018~2019年にインドネシア代表で監督を務めたサイモン・マクネミー氏がドイツの国際放送局『DW』のインタビューを受けた際に、「外国人選手は基準を上げるのに貢献できる。インドネシアの国内リーグはまだアジアの強豪と渡り合えるほど強くはないが、より大きな、より優れたリーグの選手を起用すればチャンスはある」と多重国籍選手補強のメリットを語った。

一方でインドネシア協会のアディカ・ウィカクサナCCOは「外国生まれの選手に過度に注目すると、長期的な投資として地元の人材を育成するためのインフラ改善とトレーニングの重要な必要性が無視される危険がある」と『DW』のインタビューで懸念を吐露した。

また1月にQolyのインタビューを受けたフィリピン代表DF佐藤大介もインドネシアやフィリピンと欧米のルーツを補強する東南アジア代表の状況を「最終的な解決方法はその国のアカデミーから底上げをしなきゃいけないと思っています。そこがフィリピンにとって1番のチャレンジです。2030年ワールドカップを目指すことを考えたときにこういう解決方法はアリだと思いますけど、長い目で見たときに国内サッカーの発展がしっかりしないといけないと思います」と指摘していた。

ただMFマルセリーノ・フェルディナン(ベルギー2部デインズ)、スロバキア1部セニツァでプレーしたエギ・マウラナ・フィクリ(インドネシア1部デワユナイテッド)と、インドネシア出身選手が欧州リーグに挑戦するケースも出ているため国内育成も一定の結果を出している。結果を出しつつある国内育成をより手厚く強化して、欧米にルーツを持つ選手に依存しない体制作りが課題となっている。

今後加入する可能性がある秘密兵器

インドネシア協会が短期目標に設定している「2026年ワールドカップ二次予選でベトナム撃破、2024年U23アジアカップのGL突破、年末のAFF三菱電機カップ(東南アジア最強を決める地域連盟選手権)初優勝」を達成するために、インドネシアは秘密兵器の招集に力を入れている。

秘密兵器とはイタリア・セリエAで166試合に出場したインテルGKエミル・アウデロであり、インドネシアのマタラムでインドネシア人の父とイタリア人の母の元に生まれた守護神の招集に力を入れている。

アウデロの去就は現状不透明ではあるが、インドネシア代表に加わる可能性が高いと報じるメディアも存在する。イタリアで優れた能力を発揮するGKが加われば、アジアの勢力図が大きく変わる可能性がある。

実際にプレミアリーグで38試合に出場したフィリピン代表GKニール・エザリッジの活躍もあって2019年のアジアカップ初出場と結果につなげたケースもあるため、フィールドプレイヤーが豊富でGKというピースが欠けているインドネシアにとってアウデロの補強は劇的な変化を与える可能性がある。

今後は海外にルーツを持つ選手の補強と並行して国内育成を強化しなければならないが、アジアカップU23でオーストラリアに決勝弾を挙げたMFコマン・トゥグのようにインドネシア出身の国産選手の躍動も見られるため、未来は明るいかもしれない。

アジア杯から見たアジアサッカーの発展。発展途上国の底上げにより競争激化へ

インドネシアU23代表のアジアカップU23GL突破がかかるヨルダンU23戦は、22日午前0時30分に行われる。進化の歩みを止めないインドネシアのサッカーから目が離せない。

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