『アンチヒーロー』長谷川博己が心理戦で検察と攻防 真実が闇に葬られた雨の夜

『アンチヒーロー』(TBS系)第2話では検察の闇に迫った。緋山啓太(岩田剛典)が町工場社長の羽木(山本浩司)を殺したとされる事件の公判で、担当の姫野検事(馬場徹)は凶器のハンマーを証拠として提出した。(※以下、第2話のネタバレを含むため、ご注意ください)

物証、いわゆる物的証拠は重要である。供述内容が変遷する証言と比べて、証拠の信用性が高いため、検察が被告人の有罪を立証する柱となるからだ。姫野検事が提出したハンマーは、犯行現場から2キロ先の河原で見つかったもの。緋山はハンマーを紛失しており、被害者の血液反応が出たことから殺害の凶器と考えられた。

明墨(長谷川博己)が姫野検事の担当事件を調べたところ、同一の専門家にDNA鑑定を依頼していたことが判明する。緋山の事件で、検察側は複数の証拠を取り揃えていたにもかかわらず、任意の取り調べを行ったのち再逮捕を続けるなど、時間をかけて念入りに捜査を行った。その意図するところは物証を発見することだが、明墨はそこに検察上層部に期待をかけられ、何が何でも緋山を有罪にしなければならないと考える姫野検事の焦りを読み取った。

ハンマーが緋山のものであるというだけで、緋山が殺人犯であると断定することはできない。では、もし被害者の爪の間から被告人のDNAが検出されたら? これらの証拠は相互に補強し合い、緋山が犯人である可能性は高まるだろう。しかし、DNA鑑定はすでに行われている。そのため再鑑定を依頼し、1回目の鑑定で検出されなかった緋山のDNAを混入することで鑑定結果を捏造したのではないか。そのために時間が必要だったと明墨は考えた。

弁護側の戦略としては、DNA鑑定の結果が記された鑑定書の証拠能力を否定できれば、物証があっても緋山の有罪を覆すことが可能となる。そこから、明墨法律事務所チームによる探偵ドラマばりのリサーチが開始される。DNA鑑定を担当した法医学教授の中島(谷田歩)に空白のスケジュールがあることを突き止めると、助教の水卜(内村遥)と接触し、再鑑定のデータが存在していることを巧みに聞き出した。

水卜からデータを入手しようとした赤峰(北村匠海)のミスで、中島に懲戒をちらつかされても、明墨は弱るどころか不敵な笑みを浮かべて応対した。内心の動揺を見せない明墨は、心理戦でもかなりのやり手であることを窺わせる。鑑定結果を捏造したことをどのように証明するか疑問だったが、内部告発者の証言が決め手となった。

明墨は赤峰に「裁判というものの勝ち方を見せてあげよう」と言う。第1話で羽木の会社の従業員である尾形(一ノ瀬ワタル)の目撃供述の信用性を覆し、第2話で違法な鑑定が行われたことを明らかにしたことで、裁判員の心証は被告人の無罪に傾いたと思われる。結果的に緋山は無罪となったが、真実はどうだったのだろう。本当に緋山は羽木を殺していないのかという問いに対する答えは、第2話の最終盤で示された。

覚えているだろうか。犯行当日、緋山は羽木の自宅に入っていく時にジャンパーを着ていたが、出ていく時には着ていなかった。見つかっていないジャンパーは存在していた。ごみ処理場で緋山が手にしていたジャンパーは返り血をべったりと浴びていた。「服に付いた血は洗剤で3回洗っても反応する」という白木(大島優子)の言葉が本当なら、仮にジャンパーが検察から提出され、付着した血液が羽木のものであると証明されれば、防犯カメラの映像と相まって緋山が犯人であることの決定的な証拠となる。

明墨は殺人者を無罪にしたことになる。このことを知った赤峰は、良心の呵責に苦しむ。紫ノ宮(堀田真由)も第1話で明墨が羽木の息子・湊(北尾いくと)の見間違いを承知した上で、事実に反する証言をさせたことに気づいており、明墨に対して疑念が生じている。明墨はジャンパーのありかを知っていて黙っていたのではないか。「君が君の正義を貫くように、私は私の道を突き進む」と明墨は赤峰に言うのだが、社会正義を実現する弁護士が劇中で真実をないがしろにしている事実を、私たちはどう受け止めるべきだろうか?

(文=石河コウヘイ)

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