【虎に翼】“強い女子”という単純さで描かれていない点にも、この作品が開拓者的な存在になりうる予感がする

「虎に翼」第14回より(C)NHK

1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。困難な時代に立ち向かう法曹たちの姿を描く「虎に翼」で、より深く、朝ドラの世界へ!
※ネタバレにご注意ください

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伊藤沙莉主演のNHK連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)『虎に翼』の第3週「女は三界に家なし?」が放送された。

明律大学女子部2年生に進級した寅子。同級生・新入生は次々脱落、先輩の3年生も進級したのは2人だけ。女子部存続の危機の中、入学希望者を増やす策として学園祭で実際の判例をもとにした法廷劇を2年3年有志が演じることとなる。

今週印象的だったのは、さまざまな立場と視点から対比が描かれたことだ。

まずは第1週から本作の根底に流れる男女差。「魔女部」と呼ばれる女子部に向かって上演中に「こっち向いてー」「おままごと」と大声でからかい、ヤジを飛ばす男子学生。「どうせ誰も弁護士にはなれねえよ」という言葉にキレる、よね(土居志央梨)。思わず飛び出した寅子と2人が男子学生に手をあげたことで「魔女部大乱闘」と新聞に書かれる始末。

「女だから」「どうせ女は」「女のくせに」と幾度となく描かれる男女差だが、これは昭和初期の旧憲法下にある「昔話」ではなく、女性が社会進出を果たした現代でもなお根の部分は残り続けていることに、共感の声が湧いていた。

これまで同級生にも苛立ちをみせるよね。そんなよねの過去が描かれる。百姓の次女として生まれ、生活のために長女に続き売られそうなったことで「女やめる!」と髪を切り、逃げ出し、今も住み込みで働くカフェに流れ着く。置屋に搾取されていた姉を救うために悪徳弁護士の力を借りるが、その弁護士にも自身が搾取され……よねが男装し、馴れ合わず勉強する理由が明かされた。

さらに女性同士にも、立場や環境の差があることを本作では描く。よねはクラスメートたちを嫁入りまでの時間稼ぎ、興味本位、暇つぶしと見下し、自分は「本気なんだ」と力説する。しかし、恵まれて見える人々にも事情、悩み、痛み、苦しみがある。「私たちはいつの時代もこんなふうに都合よく使われることがある」尾野真千子の語りが重く響く。

法を学ぶ華族令嬢として世間の耳目を集め、『「オールドミス」とは呼ばないで』と週刊誌に書かれる涼子(桜井ユキ)は、家柄そのものが興味本位で見られたり学内でも特別扱いされたりすることに苦しみを抱いていた。

寅子は4日も学校を休むほど重い生理に悩んでいるが、比較的軽めのよねには理解されないという対比。寅子が生理の予兆を感じる演技の細やかさにも舌を巻く。また、カフェで生理の話になったときに「席を外そうか」と、カフェのマスターが気をきかせようとする場面。小学生のときに保健の授業で女子だけ分けられたことが思い出されるが、そんなマスターに「お気になさらず」と同席させるところもまた、変わりゆく、変えようとする作り手の思いが感じられた。

「虎に翼」第14回より(C)NHK

寅子の兄の妻・花江(森田望智)も、学生である寅子たちとの対比が際立つ存在だ。猪爪家を訪れたクラスメートに女中と勘違いされ、「私なんて女中みたいなもの」と自虐混じりに嘆く。寅子の親友なのに、旧来の家庭での「妻」という立場により、学生である寅子たちと分断されている。嫁姑もまたひとつの対比だ。味付けひとつとっても、姑のはる(石田ゆり子)に認めてもらえないことに悩む。生理で悩む寅子と、交互にため息をつくカットが差し込まれるところも、お互いに分かりえない悩みを抱えて生きていることが明示され、実に上手い。

寅子とクラスメートたちは本音をぶつけあい、やがてそれぞれの痛みや苦しみを理解し合っていく。かたくなだったよねも、「この人は家事や育児をしながら学んでいる」「この人は国を離れて言葉の壁もある」「この人は常に行動を見張られて自由もなく、いろんなものに縛られて生きている」「誰よりも授業を熱心に聞いているのに、月のものが重くて授業を休まないといけない」と、みんな恵まれて生ぬるいと言いつつ、認めている変化が見てとれ、胸アツだ。

しかし、絆が生まれてきている寅子たちの姿に、「ひとりぼっちだなって……」と涙を流す花江。無意識に「兄の嫁」と寅子に紹介され、「戦わない女」なんだと悲しむ。しかし、そんな花江も寅子たちに触発され、「お母様が褒めてくれないのが嫌」と打ち明ける。実際にこの時代には今よりもっと本音をさらけだすのが難しかったろうし、言語化されず、無意識の底にあったのだろう。

そんな男女差だけでなく、同じ女性、同じクラスメートでもいろいろな違いがあり、分かり合えない部分があること、言わないと分かり合えない部分があることを物語に乗せ届けてくれた。「強い女子」「戦う女子」という単純さで描かれていない点にも、この作品自体が開拓者的な存在になりうる予感がする。

寅子たちは女子部を卒業、いよいよ男子学生と机を並べ、さらに本格的に法律を学んでいくこととなる。

大学に向かう寅子たち5人が横一列に並び歩く姿の力強さ。それはどこか集団ヒーロー物のような頼もしさのようであり、新たな戦いの幕開けを感じさせられるものだった。

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