【コラム・天風録】道の駅の旅情

 少女は旅に出る。広島県呉市からヒッチハイクで古里岩手を目指して。広島市出身の諏訪敦彦(のぶひろ)監督が4年前に撮った映画「風の電話」は東日本大震災で家族を亡くした悲しみを描いたロードムービー。少女が旅を共にする元原発作業員と出会う舞台が、道の駅だった▲その原点も広島だそうだ。1990年1月、広島市で中国地方の将来を考える集いが催された。「道路にも駅がほしい」。山口県に住む出席者の提案から国が動き出す。道中のトイレ確保に悩んでの発言だったと聞く▲きょうは「道の駅の日」。31年前に第1弾の103カ所が登録された。今や全国津々浦々、1200カ所以上。温泉や文化体験、果物狩りと特色も豊か。単なる休憩所でなく、目的地に据える人も多いらしい▲近年は防災を冠した施設も増えた。中国地方で最も新しい広島県東広島市の「西条のん太の酒蔵」もそうだ。災害の時は自衛隊や警察の救援基地となる。そう思えば広い敷地も見慣れぬ発電装置、貯水タンクも頼もしく映る▲進化はしても、旅情は感じる。その土地ならではの産物やグルメ、もてなしが醸すからだろう。目指しても、気まぐれに寄っても良し。薫る風が旅へいざなう季節である。

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