“ブタ”に失礼!? 特徴を捉えすぎでしょ…『北斗の拳』ケンシロウのつけた秀逸な「あだ名全集」

ゼノンコミックス『北斗の拳』(コアミックス)第1巻

「あだ名」とは、おもに親しみを込めて使われるものだが、たとえば近年話題になった“増税メガネ”のように、煽り目的で使われることも多い。

漫画界にも、煽りセンスに長けたあだ名の名手がいる。それが『北斗の拳』(原作:武論尊氏、作画:原哲夫氏))のケンシロウだ。弱者と味方には優しいが、卑劣な悪党どもに対しては容赦のないケンシロウ。そんな彼がつけた秀逸なあだ名を集めてみた。

■とりあえず太っている敵は「ブタ」

あまりに有名すぎる「ブタはブタ小屋へ行け!」というセリフだが、これはKINGの部下・ハートに向けられたものだ。

彼は初対面から一貫して「ブタ」扱いされており、最後には「脂肪のかたまり」とまで言われた。単に太っているから「ブタ」というだけでなく、彼の場合はその厚い脂肪を防御の要にもしていたから、戦法そのものから否定するパワーワードだ。

同じく「ブタ」関連では、カイオウの部下・ギョウコに対する「ブタヤロウ!!」というものがある。彼はハートと違って太っていることを気にしていたし、人格否定の意味合いが強いので、同じ「ブタ」でもハートとは方向性がやや異なる。

ちなみにブタの名誉のために書き加えておくと、食用豚の体脂肪率は一般的に15パーセント前後、人間の平均体脂肪率は成人男性で10~19パーセント、成人女性で20~29パーセントくらいと言われているので、肥満煽りで「ブタ」という言葉を使うのはブタに失礼である。

■こだわりのオシャレを煽ったあだ名

モヒカンだの肩パッドだの、独特なファッションセンスが目立つ世紀末。彼らのオシャレを煽ったあだ名もまた秀逸だ。

KINGの部下・スペードは、モヒカンであることを理由にシンプルに「ハゲヤロー」「ハゲ」と呼ばれた。ほかにも偽トキの木人形狩り隊・ギュウキが「ハゲ」と呼ばれているが、こちらの彼はスキンヘッド。ケンシロウにかかればモヒカンもスキンヘッドも「ハゲ」で統一されるらしい。

また、KINGの部下・ダイヤは、顔に歌舞伎の隈取のようなメイク(タトゥー?)を施していることから、「くまどりやろう」。第一声では「おいバケモノ!」と声をかけられている。

「バケモノ」呼びは、地底特別獄舎に閉じ込められていたデビルリバース、牙一族のマダラも同様だが、あちらはいかにも人間離れした風貌だった。対するダイヤはどう見ても普通の人間であり、ピンポイントでオシャレセンスを煽られた感がある。

■単に見た目を煽ったと見せかけて実は奥が深い(?)あだ名

先ほどのハートに対する「ブタ」もそうだが、単に見た目を煽っただけではなく、よく考えるとそのキャラの本質や戦法を煽ったとも取れるあだ名もある。

KINGの部下・クラブは、両手にかぎ爪をつけて戦っていたことから「カマキリ」と呼ばれた。かぎ爪なら「カマキリ」より“ウルヴァリン”や“フレディ”を連想するだろうが、それだとなんだか強そうだ。あえて「カマキリ」という虫を選ぶことにより、彼の戦法も強さも両方小馬鹿にした感がよく伝わる。

また、牙一族に対する「狼さん」という可愛い呼び方も秀逸だ。単に狼の被り物をしているからだけでなく、“華山群狼拳”の使い手ということで、敢えて可愛く呼ぶことで流派そのものを貶める効果も出てくる。

さらに、修羅の国で砂のなかに潜んで罠をかけていたシエは「オレはカニ料理は好みじゃないんだがな……」と、間接的に「カニ」呼ばわりされた。彼の戦法や見た目はいかにもカニっぽいし、語尾も「ガニ」だし、何なら“シエ”は中国語でカニという意味だ。

おそらく「カニ」は彼のアイデンティティそのものであり、それを敢えて“カニ料理は好きじゃない”と「カニ」呼ばわりしたうえで否定するあたり、捻りが利いている。

■あだ名…?

ほかにも「外道」「デクの棒」など、あだ名ではなく単なる蔑称が多いなか、黒王号を「駄馬」と呼ぶのは、ラオウへの煽りとしてはなかなか面白い。

また、成り上がりの大地主・コウケツに対する「ドブネズミ」も蔑称の意味合いが強いが、彼は過去にラオウからも「下衆なドブネズミ」と呼ばれているので、もうあだ名も同然と見ていいのかもしれない。

コウケツのように、強い者に媚びへつらい、自分の利益のためにすぐ裏切るキャラは「ドブネズミ」と呼ばれがちだが、これも「ブタ」よろしくドブネズミには失礼な話だ。

こうして見ると、正直どれもあだ名ではなく罵倒だと思うのだが……精神がダイレクトに強さに影響する拳法家にとって、初対面で相手を煽れる呼び名のセンスは重宝したいところ。このあたりも、ケンシロウの強さの秘訣なのかもしれない。

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