10年前の台風で浸食された海岸に護岸は必要か否か…住民の賛否平行線、県工事が8年ストップ 専門家の意見も割れる中、24日に高裁判決 瀬戸内・嘉徳海岸

護岸工事の完成を求める看板=16日、瀬戸内町嘉徳

 鹿児島県瀬戸内町の嘉徳海岸で計画されている県の護岸工事が、事業着手から8年たっても本格的工事が開始できない状況となっている。住民らが賛成派と反対派に分かれ、それぞれの主張が平行線となっているためだ。自然のまま残る海岸に護岸は必要か、否か。24日には反対派が県に公金支出差し止めなどを求めた訴訟の控訴審判決が福岡高裁宮崎支部で言い渡される。

 「集落を守るため護岸工事をお願いしてます」「自然を壊したい訳じゃない」-。4月中旬、嘉徳海岸には護岸の早期整備を求める看板が並んでいた。

 奄美大島では珍しく人工物がない海岸で、一帯は世界自然遺産地域を効果的に保全するための緩衝地帯にもなっている。近くの嘉徳集落には3月末現在で14世帯17人が暮らす。

 県によると、海岸は2014年の台風18号と19号で、自然の防波堤だった砂丘が最大で奥行き約20メートル浸食された。間近には墓や民家があり、県は住民らの要望を受けて16年度に対策事業に着手。当初は護岸を海岸全体に約530メートルの長さで整備する方針だったが、自然保護を求める意見などを踏まえて、長さ180メートル、高さ約6メートルに変更した。

 護岸は総事業費約3億4000万円で、14年と同程度の台風にも耐えられる設計となっている。県はこれまでに護岸のブロックの製作を終了。再三、現場での工事を始めようとしているが、反対派の抗議により着手できていない。

 反対派の住民らは、護岸は不要で自然環境にも多大な影響を与えるなどとして、19年に県を提訴。23年2月の一審判決で鹿児島地裁は、砂丘は砂の量が回復しており防災能力は十分などとした原告側の主張を退け、「(県の判断は)不合理であるとはいえない」と請求を棄却した。24日の高裁の判断が注目されるが、護岸の設置については専門家の意見も分かれている。

 海岸問題を専門とする海岸研究室(東京都)の古池鋼代表(59)は「現計画は海岸の防災機能を悪化させ、人命財産に危険を及ぼす」と指摘し、防災塔設置などの別の対策を提案する。

 他方、鹿児島大学水産学部の西隆一郎学部長(62)=海岸環境工学=は「現状のままでは十分な防災能力がない。14年のような台風がいつ来るかは分からないので早期整備が必要」と指摘する。

 原告の一人で嘉徳集落に住むジョンマーク高木さん(51)は「現計画では集落のためにならないと思うので、区長らと解決策を探したい」と訴える。一方で、区長の栄茂男さん(74)は護岸工事が進まないことにいら立ちを隠さない。「先祖が残してくれた集落を守る宿命がある。ただ安心して暮らしたいだけだ」と早期の工事着手を待ち望んでいる。

〈関連〉台風によって侵食された嘉徳海岸(県の資料から)
護岸工事が計画されている嘉徳海岸=16日、瀬戸内町嘉徳

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