【海自ヘリ墜落事故】訓練全般の検証を(4月22日)

 伊豆諸島の鳥島東方海域で起きた海上自衛隊の哨戒ヘリコプター2機の墜落事故で、搭乗者1人が死亡し、7人が行方不明となっている。重大事故が近年、続いている。再発防止に向けては、今回の事故の原因究明と合わせ、夜間を含めた訓練の在り方、進め方全般に及ぶ検証も必要ではないか。

 防衛省によると、墜落した2機は別のヘリ1機と海自艦艇とともに、海自の潜水艦を探知する訓練に加わっていたという。中国海警局の船が尖閣諸島周辺への領海侵犯を繰り返すなど、中国との接続水域の監視、警戒活動は国の防備を進める上で、重要度を増している。そんな中、国土と国民の安全を守る強い使命感を持ち、厳しい訓練に当たる隊員が命を落とす事態は痛ましく、あってはなるまい。

 自衛隊を巡っては、沖縄県宮古島付近で昨年4月、陸自のヘリが墜落し、搭乗員10人全員が死亡した事故の衝撃が記憶に新しい。当時は悪天候ではなく、有視界飛行が可能だったとされる。陸自は先月、ヘリの搭載エンジン2基の相次ぐ出力低下で墜落したとの調査結果を公表した。しかし、明確な原因は特定できていない。

 陸自トップの陸上幕僚長は「事故を深く、重く受け止め、この先一人の犠牲者も出さない決意で、飛行の安全に万全を期す」と、記者会見で述べていた。にもかかわらず、重大事故は1年足らずでなぜ、再び起きたのか。詳細な分析は、隊員の生命と安全、任務に懸ける強い意識を守る上でも重要だ。

 防衛費の国内総生産(GDP)比2%への大幅増額、反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有など、岸田政権下で軍備増強への動きが加速している。自衛隊と在日米軍の指揮・統制枠組みの見直しは、双方の一体化がさらに強まる可能性が取り沙汰されている。

 現実問題として、米国との関係強化は有事の安全保障を考える上で重要ではある。一方で、軍備を異次元に拡大する現下の政策に対し、訓練を含めた自衛隊の態勢は追い付いているのか。重大事故が重なる現状に懸念も拭えない。自衛隊による事故は国民に不安を抱かせ、信頼を損ないかねないとの危機感を強め、再発防止策をしっかりと打ち出してほしい。(五十嵐稔)

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