乳がんで左乳房全摘を経験した女優の小栗香織さん…手術を勧められても「即答はできませんでした」

小栗香織さん(C)日刊ゲンダイ

【独白 愉快な“病人”たち】

小栗香織さん(女優)=乳がん

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左胸にがんが見つかったのは2016年春でした。その4~5カ月前に母親をがんで亡くしたばかりだったので、母に「こっちへ来なさい」と言われているのかな、と考えたりもしました。

35歳から、健康診断と一緒に毎年マンモグラフィー検査を受けていました。2年に1回は超音波(エコー)検査も受けていて、乳がんが見つかったのは、この超音波検査でした。

精密検査の結果、「悪性です。すぐに取った方がいいと思います」と告げられたとき、付き添いの姉は泣いていました。でも、私はポカンとして先生の言葉がよく理解できませんでした。自覚症状が何もないので実感が湧かなかったのです。

浸潤がんのステージ1でした。手術内容は左乳房の全摘出……即答はできませんでした。「少し考えさせてください」と2~3週間時間をいただき、いろいろ悩みました。

切るべきなのか、切らなくても治す方法があるのか。あるならそれも検討したい気持ちでした。ネットや本、いろいろな人の話を聞きました。九州に切らないがんの治療をする病院があり、有名な女優さんが治療を受けたという情報にもたどり着きました。でも当時、子供(長男)が9歳だったので九州での入院は難しく、高額だったこともあり、結局、発見していただいた病院で手術を受けることを決意しました。

全摘手術を決意した一番の理由は、子供の存在です。ステージ1とはいえ、がんは死ぬかもしれない病気。まだまだ死ねないと思い、最善を考えたら残さず取った方がいいという判断になりました。生活のためには仕事にも早く復帰しなければいけないですしね。

入院は10日間でした。退院して1週間もしないうちに、仕事(出版プロデュース)に復帰しました。まだ痛みが残る中、大変でしたけれど、気分的には多少紛れたので良かった面もありました。

退院後は通院です。放射線や抗がん剤治療はありませんでしたが、私の乳がんはホルモン過多によるがんなので、ホルモンの分泌を抑える投薬を毎日1粒ずつ、5年間服用し続けました。

副作用としてむくみやすく、太りやすくなって困りました。生理が止まっちゃうし、体の負担は意外と大きかったです。激しい運動はNGなので、ヨガで体調を整えたり、うつ伏せになれないから椅子に座った状態でマッサージを受けたりしました。肩掛けバッグの紐やシートベルトが胸に当たるのが嫌で、タオルや子供のぬいぐるみを挟んで、当たらないように工夫していました。

もう飲み終わって3年目で落ち着きましたけれど、1年間ぐらいは薬の影響が体に残っている感じでした。

手術1年後に胸の再建

今も経過観察中で、年に1回検査を受けています。毎年5月に受けるのですが、毎回ドキドキします。この病気は10年間何もなければ一応の“卒業”と言われます。現在手術から8年目なので、あと2年で一段落。何もないことを祈るばかりです。

じつは昨年、健康診断で「肺の精密検査を受けてください」という結果が来てドキッとしたんですけれど、調べたら再建した胸の具合で何か写ってしまっただけで、何でもありませんでした。

胸の再建は、全摘手術の1年後に行いました。手術と同時に行う同時再建術にするかどうかは悩んだ点です。でも、摘出手術だけでも気が重いのに、さらにプラスの手術を同時に受け入れることは難しかった。

術後は補正下着などをいろいろ試しました。その結果、やはり不便だったので、再建手術を受けました。よほどのことがなければ10年間は入れ替えしなくてもいいと言われています。

うれしかったのは、子供が励ましてくれたり、手伝ってくれたりしたこと。その頃は「ボクは医者になる」と言ってくれていました。今は高校に入って文系に進んでいますけど(笑)。

病気を経て、自分が悩んだことや苦しかったことを、多くの人にお話しできる機会があればいいなと思い、「ピンクリボン」のアドバイザーや心理カウンセラーの資格を取得しました。乳がんという病気についてだけではなく、夫との向き合い方、育児、生活の仕方といったことでの悩みも多いんですよね。コロナ禍も落ち着いてきたので、講演などの機会があればいいなと思っています。

一番伝えたいのは「検査に行ってね」ということ。しこりがなくても、自分は大丈夫だと思っても、定期的な検査が大事。知り合いに子宮がんのステージ1で全摘して抗がん剤もしたけれど、告知から1年半で亡くなった人がいます。彼女も自分ががんになるなんてまるで考えていなかった。がん家系でなくても十分に可能性はあります。

お医者さんに言わせると、ストレスが一番よくないそうです。がんに限らないと思いますが、ストレスが10年たまると病気を発症するそうです。思えば、私もストレスが積もり積もってちょうど10年目のことでした。日々のストレスはあってもそれをためない生活を心がけています。

(聞き手=松永詠美子)

▽小栗香織(おぐり・かおり) 1988年に「豊島園」イメージガールとしてデビューし、17歳で人気深夜番組「11PM」のカバーガールを務める。CM、映画、ドラマなど幅広く活躍し、現在は新人タレントや女優の写真集の出版プロデュースも手掛ける。自身の写真集「35th Anniversary写真集チャーミング 1988-2004」(小学館)が発売中。

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