柔道界で異例の絶叫「ありがとう!愛してる!」 全日本女子V、地方から夫婦で掴んだ日本一

柔道の全日本女子選手権、優勝カップを手に畳の上で喜びの表情を見せる瀬川勇気さん(左)と麻優

初優勝した瀬川麻優が優勝インタビューで絶叫

「ありがとう! 愛してるよ!」。伝統を誇る柔道界では異例すぎる絶叫だった。体重無差別で日本一を争う全日本女子選手権が21日、神奈川・横浜武道館で行われ、6回目の出場の瀬川麻優(まや、26=ALSOK)が初優勝。NHKの優勝インタビューで「(旧姓)秋葉から瀬川に名前が代わって」と振られると、昨年3月に結婚した応援席の瀬川勇気さん(26)に向かって「勇気! 優勝したよ!」と笑顔で報告した。

昨年までは3回のベスト8が最高。「大きな壁だった」という準々決勝を一本勝ちすると、準決勝ではルール変更で7年ぶりに復活した旗判定で3-0と梅津志悠(JR九州)を下し、決勝では昨年準優勝の児玉ひかる(SBC湘南美容クリニック)と対戦した。

8分間の決勝、昨年準々決勝で敗れた相手を圧倒した。組手で圧力をかけ、前へ、前へ。奥襟をつかんで次々と技をかけた。3分22秒に払い巻き込みで技ありを奪うと、疲れのみえる児玉をさらに攻めた。4分46秒、相手が指導4で反則負け。優勝が決まると、涙ぐむ勇気さんに向かって何度も笑顔でうなずいた。

夫婦でつかんだ日本一だった。「全部を変えてくれた。感謝以外にない」と瀬川は言った。出会いは北海道・北海高1年の時。瀬川が岡山の環太平洋大、勇気さんが早大と離れ離れになったが、大学卒業前に本格的な交際を再スタートさせた。

故郷北海道で練習したいという瀬川さんの思いを叶えるために、勇気さんは勤めていた銀行を辞めて札幌市の人材派遣会社に転職。新型コロナ禍を2人で乗り越え、昨年3月に入籍した。瀬川は平日、母校で高校生たちと練習を積み、土曜は勇気さんと練習する。「ビデオで分析してアドバイスをくれたり、技術的にもいろいろと教わっている」と瀬川は話した。

精神面でもサポート「いつも前向きな言葉をかけてくれる」

精神的なサポートも大きい。今月初旬の選抜体重別で負けた後「落ち込んだ時に支えてくれたのが大きかった」と瀬川。「いつも前向きな言葉をかけてくれる」と感謝した。負けを引きづるタイプだったが、それも払拭。勇気さんは「筋トレなどすごく一生懸命。強くなりました」と瀬川の成長を喜んだ。

この日も、試合を終えるたびに勇気さんとスマホの動画を見ながら反省。次の相手の動画を見ながら作戦をたて、柔道着の夫を相手に技をチェックした。広い会場でも常に一緒。「新婚ですから」と夫は照れたが、それが日本一につながった。「講道館杯(11月)まで試合がないので、しっかり力をつけてグランドスラムを狙いたい」と、瀬川は28年ロサンゼルス五輪まで見据えて話した。

7月のパリ五輪組に5月の世界選手権代表も不在の大会。29日に行われる男子の全日本選手権とともに、その「あり方」が問われる。「柔道の魅力をより伝えるために」と国際ルールの延長を廃止し、旗判定が復活。世界の柔道カレンダーが変わる中で「日程も議論されている」と全日本柔道連盟の金野潤強化委員長は説明した。

新時代を迎える大会を象徴するような新時代の女王。テレビインタビューの「愛してるよ!」だけでなく、地方から夫婦で日本一を目指すのも異例だ。「北海道が好きなので、北海道でやることがいいんです」と勇気さん。連休には、2人のパワースポットでもある洞爺湖を訪れ、優勝祝いをするという。(荻島 弘一)

THE ANSWER編集部

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