【寄稿】「衝突から共生へ」 「ちゃんぽん文化」に学べ 柴田守

 独協大学がある埼玉県では、トルコの少数民族クルド人に関する問題が生じており、特に川口市では地元住民らとの軋轢(あつれき)が表面化している。今月13日には新藤義孝経済再生担当相(衆院埼玉2区選出)らが同市内のクルド人集住地区を視察した。
 移民の受け入れによって起こる典型的な問題の一つが治安の悪化である。新藤経再相らが視察した公園では、1月に公衆トイレの破壊が確認されており、市が被害届を出している。また、3月には難民認定申請中で仮放免中だったトルコ国籍の男(20)が、女子中学生に対する不同意性交などの容疑で埼玉県警川口署に逮捕された。
 治安の悪化には「異質な文化との衝突によって生じる葛藤」(文化葛藤)が関係している。移民は通常、マイノリティーとなり不安定な状況にさらされるため相互依存関係(コミュニティー)を形成する。その関係から生み出される文化(サブカルチャー)は先住民が支配する文化と衝突することが多い。こうした状況は、マイノリティーとなる移民にとって個人の内面的な葛藤につながり、そのため逸脱行動を引き起こすというメカニズムになる。特に、急激な社会変動によって価値規範のゆらぎが生じ、既存の行動ルールが崩壊する時に集団的な逸脱行動が発生しやすくなる。
 治安が悪化すれば、受け入れ国では移民への拒否反応や排斥運動が生じることもある。このような反応が生じることも理解できなくはないが、人口減少に苦しむ日本社会の将来設計も考慮に入れて犯罪学上の処方箋を出すとしたら、それは正しい方向ではない。必要なのは「対話と合意に基づいた秩序形成(社会的な結合)を図ること」である。
 その社会形成で参考となるのが「ちゃんぽん文化」と言われる長崎ではないだろうか。かつて長崎の地は弾圧によって多くの血が流されてきたことを忘れてはならないが、異文化が共生し、犯罪発生率も低い現在の社会がそこから形成された過程を改めて評価することで、移民政策で直面する問題への解決につながる可能性がある。特に、異文化間でのコミュニケーションを積極的に図って調整した存在がいたのだと信じたい。
 特定技能制度見直しで外国人材受け入れが拡大することから、このような問題は、今後、日本の各地で生じることが想定される。それを見据えて、異文化共生に向けた政治的なリーダーシップを発揮するとともに、予想される副作用への対策も講じて、それらを国民に丁寧に説明することも必要だというメッセージを国会に送りたい。
 
 【略歴】しばた・まもる 1977年、北九州市出身。長崎総合科学大准教授を経て、2023年度から独協大法学部教授。元長崎市安全・安心まちづくり推進協議会会長。専修大学大学院法学研究科博士後期課程修了・法学博士。

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