日本製鉄呉地区跡地の複合防衛拠点、広島県と呉市のトップに温度差

防衛省による複合防衛拠点の整備案が浮上している日鉄呉地区跡地

 広島県呉市の日本製鉄(日鉄)瀬戸内製鉄所呉地区跡地で浮上する複合防衛拠点の整備案を巡り、広島県と呉市の両トップの発言に温度差がにじんでいる。湯崎英彦知事はあくまで「選択肢の一つ」と慎重な姿勢を崩さない。新原芳明市長は「重要な選択肢」と述べ、海上自衛隊と歩んできた戦後の市の歴史を踏まえ、国防への協力に理解を示している。

 「具体的なものを示していただくのが第一だ」。湯崎知事は16日の記者会見で防衛省案への対応を問われ、こう注文した。産業用地としての活用を含む他の選択肢を探る立場を強調し「自衛隊が好きとか嫌いではなく、冷静な判断が必要」と語った。ただ、最終的には呉市の意向を尊重する考えも示している。

 一方の新原市長。9日の報道各社の取材に「市民の期待は大きい。非常に重要な選択肢」と述べ、市議会の反応を踏まえて防衛省案を重視する考えを示した。その後の中国新聞の取材には「経済効果のために防衛目的を曲げるのは、市にとってもマイナス」との思いも披露した。

 両トップの温度差は、跡地所有者の日鉄への態度でより鮮明となる。

 日鉄は3日、防衛省案の対応に注力することを理由に、産業用地としての活用を検討する県、市との3者協議に参加しない意向を伝えた。県によると、日鉄は3者協議について「4月以降に応じる」との考えをいったん示していたという。

 こうした日鉄の姿勢に湯崎知事は9日の記者会見で「地域にベストな選択肢を考えることを無視しないでほしい」と苦言を呈した。それでも、新原市長は「日鉄はこれからも話は聞いてくれると思う」と変わらぬ信頼感を示した。

 両トップは今後も日鉄に協力を求める方針では一致する。県と市は本年度、計2千万円をかけて産業用地としての活用策を調査するためだ。調査には跡地の汚染状況や建物の解体スケジュールといった情報が必要で、日鉄に3者協議への参加と合わせ、情報提供を呼びかけていく。

 ただ、日鉄は「防衛省案は社の方針と合致」とし、防衛省も「早期一括買収に向けた調整を加速していくことを日鉄と確認している」と説明している。防衛省が2025年度の調査費の予算化に向けて検討を急ぐ中、防衛省案を前提とした4者協議だけが、県と市との「交渉テーブル」になる可能性がある。

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