現代人の多くが悩む、肩こり、そして様々な原因による肩まわりの痛み。あきらめて放置する人も散見されますが、しっかり検査を受けることが重要です。本連載は、整形外科医・歌島大輔氏の著書『肩こり・五十肩・腱板断裂 肩の痛みがよくなるすごい方法』(Gakken)より、一部抜粋して紹介します。
Q 40代からの腰痛持ちで、50代になって五十肩を発症しました。 これは老化によるものでしょうか?
A 腰痛改善のために姿勢を意識すると、五十肩にも良い影響があります。
五十肩を発症した原因が老化といっていいかは判断が難しいです。ただ、若い人で五十肩になる人がいないのは確かなので、加齢性の変化の一部ではあると考えられます。腰痛を引き起こす、もしくは腰痛の原因となる姿勢の悪さが、五十肩の人に多いということは研究でわかっています。
※1 Vardanapu, P., Jampa, N. S. K. & Hussain, A. Correlation Between Upper Trapezius, Levator Scapulae And Pectoralis Minor Muscle Length In Frozen Shoulder – A Cross-Sectional Observational Study. Int. J. Physiol. Pathophysiol. Pharmacol. 93–98 (2020)
対処法はシンプルに腰痛の治療をすることです。また、腰痛の改善のために良い姿勢を意識することは、結果的に五十肩にも良い影響をおよぼす可能性があるといえるでしょう。
[図表]良い姿勢の例 イラスト:ヨシザワ・ユリエ
Q 肩の痛みが徐々に強くなり、 数週間すると消え、しばらくするとまた痛くなります。 これを何度も繰り返していますが、放っておいて大丈夫でしょうか?
A 原因が見つからず、痛む期間が短い場合は放っておいても大丈夫ですが、何度も繰り返すようなら検査しましょう。
一般的に数週間程度で消える症状の場合は、放っておいても問題ないことが多いです。気休めのようないい方になりますが、原因が見つからず、早期に症状が消える場合は対処する必要がないことが多いのです。原因がはっきりしないようなら、いい意味で放っておいてもいいと思います。
ただし、「痛くなっては消える」を何度も繰り返す場合は、検査をおすすめします。
あまり聞かないケースですが、腱板断裂(けんばんだんれつ)の可能性もあります。また、滑膜性骨軟骨腫症(かつまくせいこつなんこつしゅしょう)という病気も考えられます。滑膜が軟骨のように変化して関節の中に挟まって痛みが出る病気で、痛みは何か月間か続きます。挟まった軟骨が外れると痛みがなくなりますが、何度も繰り返すのが特徴です。
Q 欧米人は肩がこらないって聞きますが、本当ですか? 同じように子どもは肩がこらないのですか?
A 欧米人も子どもも肩こりになります。
そもそも「肩こり」という表現は英語にありません。肩こりの症状を英語ではneck painやstiff neckといいます。直訳すれば首の痛み、こりです。だから「欧米人は肩がこらない」という誤解を生んでいるのでしょう。2000年のカナダの論文によると、サスカチュワン州の54%の人が半年以内に肩こりを経験しているという報告があります。このことから、おそらく肩こりは全世界に共通する症状だと考えられます。
※2 Côté, P., Cassidy, J. D. & Carroll, L. The factors associated with neck pain and its related disability in the Saskatchewan population. Spine 25, 1109–1117 (2000)
子どもに関しても、最近は肩こりの症状が多いようです。イランの7歳から12歳の小学生693人を調査した論文によると、首(頚部)の痛みを感じる子が35%、肩の痛みを感じる子が30%いたそうです。原因として机の高さが高いことや座面が後ろに傾いていること、板書が見づらいこと、宿題が多すぎることなどがあり、それらが子どもの肩こり・首こりのリスクを高めているようです。
※3 Gheysvandi, E. et al. Neck and shoulder pain among elementary school students: prevalence and its risk factors. BMC Public Health 19, 1299 (2019)
Q 寒い日ほど肩こりがひどいと感じます。 気温と肩こりは関係するのでしょうか?
A 気温が低下すると筋肉が硬くなるので、首まわりを温めましょう。
気温が低下すると筋肉は硬くなります。マウスを使った実験で、筋肉の温度が32度を下回ると肉離れリスクが高まることが明らかになっています。スポーツをする前に準備運動をしますが、それは筋肉の温度を高め、怪我を予防することが目的です。
※4 Scott, E. E. F., Hamilton, D. F., Wallace, R. J., Muir, A. Y. & Simpson, A. H. R. W. Increased risk of muscle tears below physiological temperature ranges. Bone Joint Res. 5, 61–65 (2016)
寒いと体温調節のために熱を放散しないように血管が収縮するため、血管が細くなります。その結果、血流も悪くなります。
肩こりの人は、寒さ対策として首まわりを温めるといいでしょう。タートルネックの服を着たり、マフラーを巻いたりするのもいいですが、厚着には注意が必要です。服が重いことが肩こりの原因になることもあるからです。服を軽くする手段として、使い捨てカイロを貼ってもいいでしょう。
ただし、低温やけどの原因になるので寝るときに使うのは避けてください。
歌島 大輔
整形外科専門医
日本整形外科学会認定スポーツ医