地域住民に話を→2時間待っても誰も来ない 廃止・減便の弘南バス(青森県)沿線を記者が歩いてみた

4月から路線バスの便数を約1割減らした弘南バス。利用者の大幅減が背景にあるとみられるが、住民からは不安の声も=10日、弘前市の「岩木庁舎前」バス停

 秋田県境に近い青森県平川市碇ケ関地区。弘南バス(本社弘前市)のバス停「岩淵公園前」は3月まで碇ケ関線の発着地だった。周りは山に囲まれ、民家はまばら。バス停廃止前に地域の話を聞けないか-。同月13日、バス停で午前10時ごろから2時間ほど住民が現れるのを待った。が、誰も来なかった。

 「たまに朝6~7時台に1人乗る時があるよ」。出発待機中だった社歴約30年の50代男性運転手が気さくに教えてくれた。「この辺はお客さんがあまりいないというのも廃止の理由じゃないかな?」

 残業規制強化などの「2024年問題」により深刻な運転手不足に陥っている弘南バスは4月1日、大幅な減便や路線短縮に踏み切った。便数は約千便から約900便へと1割減。この碇ケ関線では「道の駅いかりがせき」より県境側の七つのバス停をなくした。

 どうにかして乗客の声を聞きたい。3月27日、朝7時台に岩淵公園前からバスに乗った。すると「碇ケ関郵便局前」で1人の女性(78)が乗車。「弘前へ通院に向かう」という。

 バス停の廃止方針に困っているのでは-と尋ねると「仕事で弘前に向かう知り合いの車に同乗するから、それほど困らない」と予想外の答えが返ってきた。廃止区間で乗車したのは結局この女性1人だけだった。

 ダイヤ改正後、改めて地域を回った。

 自宅で両親の介護をしている碇ケ関地区の北川善清さん(62)は、弘前市への通院で月に1回ほどバスを利用していたという。「私はまだ近くの駅まで歩けるが、足腰が弱いお年寄りはそうではない。今まで通り運行してほしかった」

 50代女性は「バス停がなくなるなんて夢にも思わなかった。せめて減便で対応できなかったのか」と困惑の表情を見せた。普段は使わなくても、いざという時の頼りにしてきた-という実情がうかがえた。

▼「空気運んでいる」寂しげ 弘前・弥生線

 まだ肌寒さが残る3月14日。弘前市街地にある弘前バスターミナルから、岩木山麓方面へ向かう弥生線のバスに乗り込んだ。

 車内は記者を含め3人。岩木地区に入る手前の「工業高校前」辺りから記者1人だけに。寂しさに負け、終着の「弥生北口」まで行かず途中の「弥生小学校前」で降車した。

 降り際、60代の男性運転手に路線の現状を聞いてみた。「一日を通して利用者は多くて2人、ゼロの日も珍しくない。昔は車内もにぎやかだった。今は空気を運んでいるようなものだ」。なんとも寂しげな声が返ってきた。

 この路線は4月1日を境に約半分の計11便がなくなった。しかも市街地へ行くのに「岩木庁舎前」での乗り換えが必要となった。

 かつて地域の多くの学生たちが市街地への通学手段に使っていた。多い時で20人ほど乗車することもあったという。今は少子化が進んで学生の数自体が減り、親が車で送り迎えするスタイルも定着した。

 弘前市弥生地区に住む髙谷昭江さん(80)は市内の病院へ通うため、週に1回このバスを利用していた。

 ダイヤ改正後どうなったかを尋ねると、最終便の時間が早まったため、診療時間が長引くと帰りの便に間に合うか気になるようになった-という。「今のところ不便はないけど、これ以上便数が少なくなると病院に通うのが大変になるかも」と話した。

▼運転手不足解消 妙案なく/弘南バス、住民に理解求める

 運転手不足を解消する妙案は見つからない。弘南バスは来年度以降も全路線で便数を見直していくことにしている。

 沿線自治体は運行費の赤字分を補助しているが、全額ではない。同社担当者は「弘南バスは民間企業であり、利用者の要望を全て担保することは難しい」と説明する。

 その上で「乗り合いタクシーへの移行など、できるだけ不便をかけないような形を考えていきたい」と地域住民の理解を求めた。

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弘南バス 1941年創業、従業員数419人。路線バスは弘前管内(弘前、大鰐、西目屋、板柳)のほか、青森、黒石、五所川原、鯵ケ沢などで運行している。弘前バスターミナル-青森空港間のシャトルバスや首都圏、仙台市への高速バスのほか、ツアー事業も手がける。本社は弘前市藤野2丁目。

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