石川・輪島市の被災美術館展示の「七々子塗」作品、「故郷」の青森・五所川原市に傷一つなく戻る

輪島市から戻ってきた作品「朱玄」を見る白川さん

 青森県五所川原市金木町の津軽塗職人白川明美(あきみ)さん(68)が制作し、1月の能登半島地震発生時に石川県輪島市の美術館に展示されていた作品が、白川さんの元に無事戻ってきた。昨年の「国際漆展・石川2023」で金賞に輝いた七々子塗盛器「朱玄(しゅげん)」で、傷一つない状態。白川さんは「九分九厘駄目だろうと諦めていた。無事に返してくれた美術館や石川県の方々に感謝したい」と話している。

 作品「朱玄」は天板が縦18センチ、横100センチ、土台を含めた高さが13センチという大型の盛器。きめ細かな模様が美しい七々子塗で、表面は鮮やかな朱色となっている。食卓を飾る道具でありながら、使わない時はアートのように飾ることのできる「朱玄」は高く評価され、デザイン部門の金賞を獲得した。

 輪島市の「石川県輪島漆芸美術館」では、昨年12月から入賞・入選作品の展示が行われ、今年1月1日はちょうど後期展示が始まった日だった。「朱玄」も展示作品の一つだった。しかし、その日に能登半島地震が発生。白川さんは被災地の映像を見て「(朱玄は)確実に壊れたな…と思った」と振り返る。この地震で輪島市は最大震度7を記録。市中心部に近い同美術館も設備などが被害を受け、今も臨時休館が続いている。展示していた国際漆展の入賞・入選作品の中には、床に落ちるなどして壊れたり、傷ついたりしたものもあったという。

 白川さんには2月に入り「朱玄」が無事であるとの連絡があり、3月になって戻ってきた。傷一つない状態で「奇跡だと思った」と話す白川さんは、「たくさんの人が亡くなられている大変な時期に、しっかりと検品し、返してくれて本当にありがたい」と感謝する。「朱玄」は今後の個展などで披露する予定だ。

 「国際漆展・石川」は3年に1回のペースで開催されており、内外から作品が集まる国際展として高い評価を得ている。同展の最高賞である「大賞」を取るのが目標だという白川さん。石川県への“恩返し”の思いも込め、新たな作品の制作に挑むことにしている。

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