オマージュで物議も…劇場アニメ『ルックバック』で“実際の事件”を題材にすることへの議論が過熱

劇場アニメ『ルックバック』が6月28日に公開されると決定し、予告映像も解禁となった。原作の独特な空気感を見事に表現した繊細なアニメーションに絶賛の声が上がる中、公開が近づくとともに、とある心配の声も強くなってきている。

本予告特報(https://www.youtube.com/watch?v=6pKt9OsxwWc)より

『チェンソーマン』や『ファイアパンチ』などで知られる漫画家・藤本タツキが2021年に「ジャンプ+」にて発表した同作。SNSなどで大反響を呼び、配信から2日ほどで400万PVを突破した。

予告映像で傑作の予感漂わせる『ルックバック』

学年新聞で4コマ漫画を連載している小学4年生の藤野と、不登校の同級生・京本の2人を中心に物語は展開。クラスメートから絶賛され、自分の画力に絶対の自信を持つ藤野だったが、ある日の学年新聞に初めて掲載された京本の4コマ漫画を目にし、その画力の高さに驚愕。以来、脇目も降らず、ひたすら漫画を描き続けた藤野だったが、一向に狭まらない京本との画力差に打ちひしがれ、漫画を描くことを諦めてしまう。

しかし、小学校卒業の日、教師に頼まれて京本に卒業証書を届けに行った藤野は、そこで初めて対面した京本から「ずっとファンだった」と告げられる。一度は、漫画を描くことを諦めるきっかけとなった京本と、今度は一緒に漫画を描き始めた藤野。二人の少女をつないだのは、漫画へのひたむきな思いだった。しかしある日、すべてを打ち砕く事件が起きる…というストーリーだ。

監督・脚本・キャラクターデザインを務めるのは、スタジオドリアン代表取締役の押山清高氏。『電脳コイル』『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』『風立ちぬ』『ドラえもん のび太の新恐竜』など数々の大ヒットアニメの制作に関わってきており、原作者の藤本も「押山監督はアニメオタクなら知らない人がいないバケモノアニメーターなので、一人のオタクとしてこの作品を映像で見るのが楽しみです」と期待のコメントを寄せている。

その期待通り、4月17日に公開された予告映像は完成度がかなり高く、傑作を予感させる。視聴者からも〈すげえ原作の絵がそのまんま動いてる〉〈藤本先生の絵のタッチでこんなに再現できるのがすごすぎる〉〈予告で泣いたオレは本編見たらどうなるんや…〉と早くも絶賛の声が殺到した。

一方で、〈ルックバックを見かけたり思い出す度に当時の不愉快な感情とか最悪な気分のもろもろが溢れてくるから正直…〉といった否定的な声も一部であがっている。

というのも同作は2021年に発表された際、作中の重要なワンシーンが、京都アニメーション放火殺人事件をオマージュしていると一部から揶揄されていた経緯があるのだ。公式からの説明はないものの、漫画の公開日が、京アニ事件の1日後に当たる、7月19日ということなどからも、意識している可能性は少なくない。

“実際の事件”オマージュで見えてくる作品の役割

実際の事件のオマージュといえば、大ヒット作品『推しの子』でも、木村花さんが亡くなった恋愛リアリティ番組『テラスハウス』をオマージュしたようなシーンがあり、花さんの母親が苦言を呈す事態にまで発展するなど、大きな問題へと発展した。

こうしたオマージュする作品は国内外問わず多く、作品を創るうえでとりわけ珍しい手法でもないが、上記2作品は元の事件発生から日が浅いうえ、事件があまりにもショッキングで人々の印象に強く残り、さらにアニメ・漫画作品が大ヒットしたことで広く知られることになったことで、ここまで波紋を呼ぶことになってしまったのだろう。

丁寧に扱う必要があることに間違いはないが、『ルックバック』も『推しの子』も十分、それを意識していることは作品から読み取れる。

映画『すずめの戸締まり』が東日本大震災と真っ向から向き合って称賛を浴びたように、アニメでしか果たせない役割もある。『ルックバック』に対しては、〈京アニの事件を消費したというより、京アニの事件に対してどうすればいいかわからない思いを形にしたのだと思っている〉〈ルックバックが京アニ事件をどう扱ったのかは読み手によって捉え方は変わるけれど、少なくとも僕はあの事件に対するやるせないような複雑な気持ちを消化した作品だと受け止めている〉といった声もあがっている。

否定したい気持ちも間違ってはいないかもしれないが、作品が創られることで得られる意義は大きなものではなかろうか。(文:神山)

© 合同会社サブカル通信社