【福島牝馬S回顧】コスタボニータが待望の重賞初制覇 スピード勝負で一変、示した父イスラボニータ譲りの適性

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持久力勝負からスピード勝負へ

2024年4月20日に福島競馬場で開催された福島牝馬Sは、過去10年1番人気未勝利というデータを覆し、コスタボニータが見事1番人気に応えた。ポイントは絶好の馬場状態にあった。

2004年創設と重賞の歴史としては浅めだが、全20回で1番人気は【3-4-2-11】と苦戦していた。4勝目になったコスタボニータの勝利は、連覇を達成した13年オールザットジャズ以来で11年ぶり。過去10年未勝利データがここで崩れた。来年からは記事の見出しを考え直さないといけない。

前走中山牝馬Sから来た1番人気馬はこれで【4-3-1-8】。やはりつながりが強い。中山牝馬Sは稍重で行われ、1.49.0で決着。前半1000m通過1.01.5とペースも速くなく、このペースに持ち込んだコンクシェルに上手く逃げ切られたレースであり、全体的にスピードを問わない形になった。

対して、福島牝馬Sは開幕して5日間すべて良馬場という絶好のシチュエーションで行われた。朝のクッション値9.5は昨夏開催最終日9.6に次ぐ馬場硬度だった。状況としては中山牝馬Sより明らかにスピード優先。スピード決着で強さを発揮できるかどうかを問われた。

これに応えたのが勝ったコスタボニータ。東京2勝、昨年の阪神牝馬S3着とスピードが出やすい舞台に強く、小回りへの対応力がある。中山牝馬Sの5着は対応力で掲示板確保も、本質的に合わないレースだったといえる。今回は前半1000m通過1.00.3とスピードに乗りながら、無理なく運べる絶妙なペースでもあった。

フジキセキを想起させるイスラボニータ

父イスラボニータは皐月賞を勝ち、ダービー2着。その後は中距離にシフトしていき、最後は1400mの阪神Cを1.19.5のレコードで制し、引退した。キャリアを重ねると、スピード色が濃くなっていくのはフジキセキ産駒のパターンのひとつだ。

ましてイスラボニータの母の父はコジーン。母系もスピードの持続力に長けた血が流れていた。スピードに特化した配合のイスラボニータは産駒にそんな強みを多く伝えており、フジキセキ産駒と似た適性を感じる。若い頃は中距離を走り、壁を感じるようになったら距離を短縮させていく。産駒の距離短縮は味方につけよう。

コスタボニータは短縮ではなかったが、稍重から良馬場に変わり、明らかに末脚が増した。ゴール前、一旦抜け出したフィールシンパシーを捉えた脚色には鬼気迫るものがあった。こういった狂気じみたパフォーマンスもフジキセキ産駒っぽい。今後もスピード色優先の馬場状態ではきっちり評価しよう。好位に取りつけるタイプで、そう崩れないだろう。

福島の穴種牡馬ベーカバド

残り800m46.6は11.6-11.8-11.6-11.6。ゴールまで決してラップが落ち込まなかった。これを踏まえると、2着フィールシンパシーは先に抜け出して、最後に脚があがったわけではないことがわかる。

これまで1600m【3-3-0-6】、1800m【1-0-1-3】とマイル中心に使われてきたが、1800mの重賞でも十分戦えるようになった。前走中山牝馬Sで積極的に番手を追走し、食い下がって4着を確保した経験が前進を呼んだ。むしろ1800mは競りかける馬も減り、マイペースに持ち込みやすいかもしれない。

ちょっと地味な父ベーカバドは福島で単勝回収値が100を超える穴種牡馬。全体的に2着が少し多いのも特徴で、フィールシンパシーの8番人気2着は産駒の傾向通りでもあった。

3着ウインピクシスは愛知杯13着から一変した。もともと昨夏のクイーンSで2着、続く福島記念も4着と重賞通用の力をもっており、今回は得意の福島、さらに単騎逃げによって蘇った。

ハナはスタンド前で外からラリュエルも狙ったが、ウインピクシスがダッシュ力で上回り、松岡正海騎手もきっちり譲らない姿勢を示した。願ってもない形になりながら3着は物足りなさも覚えるが、そこはゴールドシップ産駒らしく、良馬場のスピード決着だと、最後に苦しくなる。ウインピクシスにとってはもう少し時計を要する馬場がよかった。

最後にこのレースでは、好位を進んでいた3番人気シンリョクカが向正面で前の馬に触れ、落馬した。そのあおりを受け、ライトクオンタムも落馬してしまった。好位から後ろはこの事象の影響で力を出せなかった馬も多かった。福島牝馬S大敗は字面通り受け取らないようにしよう。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。



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