【今週のサンモニ】「サンモニ」の”恐喝”方法|藤原かずえ 『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。

完全なるお花畑「外交万能論」

2024年4月21日の『サンデーモーニング』が取り上げたイランとイスラエルの国際紛争は、『サンデーモーニング』が叫んでいる「外交万能論」による「空想的平和主義」が無効であることを示す極めて分かりやすい事例であったと言えます。

アナウンサー:中東の軍事大国、イランとイスラエルの間で緊張が高まっています。互いを攻撃し合うなど止まらない報復の連鎖、世界は今、大きな火種を抱えています。国連安保理緊急会合での激しい応酬。

イスラエル国連大使(VTR):イランの攻撃はレッドラインを超えた。イスラエルは報復する権利がある。

イラン国連大使(VTR):イランは国際法の下、自衛権を行使するしかなかった。

アナウンサー:事の発端は今月一日でした。イスラエルがシリアにあるイランの大使館を攻撃したのです。するとイランが報復に乗り出し、ミサイルやドローンなど350以上をイスラエルへと発射、初めての直接攻撃でした。中東周辺に展開する米軍もイランからイスラエルに向かうミサイルを迎撃。

バイデン大統領:卓越した技術で米国はイスラエルに向かうミサイルをほぼ撃破できた。

イスラエルのイラン大使館の攻撃に対して、イランが反撃したのは、イランは戦う【能力 capabilities】【意図 intentions】があることを示したのであり、これはあくまでも戦争の【懲罰的抑止 deterrence by punishment】のための仮攻撃であると言えます。

一方、米軍がイランのミサイル攻撃をことごとく迎撃したのは、米国には高い防衛の【能力 capabilities】があり、ミサイル攻撃が効果的でないことを認識させる【拒否的抑止 deterrence by denial】です。ここで、米国は戦う【意図 intentions】を否定したため、イラン側にボールが投げられました。これは典型的な【交互ゲーム sequential game】です。

この【強制力 coercion】に関する【宣言 commitment】を送りながら展開する一連の【外交 diplomacy】の流れは、明らかに【ゲーム理論 game theory】を根底に置く戦略であり、まさに「戦争は外交の延長」であることがわかります。

『サンデーモーニング』が叫んでいる「外交万能論」は完全なるお花畑であり、国際紛争の解決に必要不可欠な【信憑性 creditability】(=意思+能力)には値しないのです。

核は世界平和維持のための「必要悪」

実際、国際社会からの懸命な説得も行われていますが、必ずしも成功していません。

アナウンサー:イスラエル側の被害を最小限に抑えることで報復の自制を求めた米国、バイデン大統領はネタニヤフ首相に「イランへの反撃に米国は加わらない」と伝えました。中東の軍事大国のかつてない衝突に国連のグテーレス事務総長は…

グテーレス国連事務総長(VTR):壊滅的な全面戦争の危機だ。今こそ最大限の自制をすべきだ。

アナウンサー:しかし、翌日にはイスラエル政府がイランへの反撃を決定したとの情報も。英国キャメロン外相が訪問し、直接自制を求めましたが…

ネタニヤフ首相(VTR):決定は我々が自分たちで下す。イスラエルは自国を守るために必要なすべてを行う。

アナウンサー:あくまでも強硬な姿勢。対するイラン側も…

ハグタラブ司令官(VTR):我々の核施設が脅威に晒されれば、間違いなくイスラエルの核施設に反撃して見せる。

アナウンサー:そして迎えた金曜日、イランへの攻撃が報じられたのです。(中略)中東地域、さらには世界規模へと紛争が拡大する可能性が現実味を帯びてきている中、報復の連鎖を止める術はあるのでしょうか。

以上の経過からも『サンデーモーニング』の「外交万能論」がいかに愚かで幼稚で無責任であるかがわかります。スタジオトークにおける浜田敬子氏のコメントも感情に訴えているだけで何の解決にも繋がらないものです。

浜田敬子氏:何がきっかけでエスカレートするかわからない。その時に一番心配なのは、イスラエルが事実上の核保有国であり、イランには核兵器の開発疑惑があること。

科学技術が発展して、北朝鮮のような貧しい専制覇権国家ですら核を保有できるような時代に、核は世界平和維持のための「必要悪」となっています。

専制覇権国家の専制支配者は、彼らの豊かな生活を破壊する「核による反撃」という懲罰的抑止が有効であるため、核を使用できないのです。

ここでも、イスラエルとイランがもつ核が、両国のエスカレートを阻止している現実も直視する必要があります

膳場氏のどうしようもなく無責任な発言

浜田敬子氏:特に911後の米国の中東政策のダブル・スタンダードが明らかになって来て、それに対する中東の人たちの怒りを現地で感じた。今その米国が弱体化していることによって、影の戦争が表に出てきた。結局それで犠牲になっているのは誰かというと、ガザの人達だったりパレスチナの人たちだったり。そういった大国の思惑と中東の力学によって一番弱い人たちに被害が集中している

米国を罵倒して憎悪を拡大しているだけで何の解決にもならないルサンチマンに溢れたコメントです。この論理で言えば、米国はダブスタを恐れずに一番の弱者を守ってきた汚れ役であると言えます。

安田菜津紀氏:イスラエルと見られる攻撃が大規模にならなかったのも、一つはエスカレーションを避けるためと言われているが、同時にガザへのさらなる攻撃にイスラエルとして注力するためであると指摘されている。

松原耕二氏:今回の報復の応酬で得をしたのはイスラエルだ。米国からすれば、対イランで考えると、軍事支援を見直すどころではなくなった。イスラエルは米国を引きずり込もうとしている。

安田氏と松原氏によるこれらのコメントは論理的です。ここで考える必要があるのは、イスラエルがイランとの戦争を回避してガザ侵略を選択するのは相手の抑止能力の有無であるということです。

覇権国家であるイスラエルにとって、強力な攻撃力を持つイランを攻撃するのは非効率であり(懲罰的抑止効果)、攻撃力も防衛力も低いガザを侵略する方が効率的です。

2024年4月14日の放送で、膳場貴子氏が主張した「抑止力を高めれば、攻撃の標的になるリスクも高まる」というのは、本当にどうしようもなく無責任な発言であると言えます。専制覇権国家は、核心的利益のためなら、血も涙もなく相手の弱点を突いてくるのです。

【今週のサンモニ】岸田総理訪米を巡るアクロバティックな論点逃避|藤原かずえ | Hanadaプラス

「止めろ」で止まるわけがない

外交すれば戦争を止められるという幻想は何の根拠もないものです。その意味で、イスラエルのガザ攻撃に対する安田菜津紀氏の次のコメントもあまりにも無責任です。

安田菜津紀氏:これだけの女性と子どもを含んだ凄惨な事態をなぜ国際社会が止められずにいるのか。それに関連しては、日本の中でも実は気になる動きがあって、8月6日に広島で平和式典が行われるが、そこに、ウクライナに対する軍事侵攻を続けるロシアが招待されないという一方で、イスラエルに対しては変わらず招待状を送るということだ。

まず、疑問に思ったのはその理由だ。「イスラエルの攻撃については世界各国の判断が定まっていないため」と広島市は説明しているが、あと何人のガザの人が殺されたら、あと何人の女性たちが犠牲になったら、あと何人の子どもたちが孤児になったら、広島市は他国の顔色を見ずに主体的な判断ができるのか。少なくとも国際平和都市と名乗るのであれば、そういうダブル・スタンダードではなくて、人権だったり人道だったり少なくとも国際法に基づいた態度を貫くべきだ。

まず、イスラエルによってガザの人々の人権が蹂躙されているのは明白ですが、「止めろ」と言えば止まるわけでもありません。停戦のアイデアを出すこともなく、この事態を曖昧な存在である「国際社会」のせいにするのはお門違いの責任回避ですし、何の解決にもなりません。

そもそも、広島平和式典の目的は、平和の実現を希求することです。主催者である広島市が「どの国が悪であるか」を判定する式典ではなく、戦争当時国を排除する式典でもありません。式典の目的を考えれば、すべての国・地域を招待するのが合理的です。また、主催者にも主催者の主体的な総合的判断が存在します。

朝日新聞:市は招待を見送った理由としてロシアによるウクライナ侵攻を挙げ、「昨年度から状況が変わっておらず、同様の対応を取ることにした」と説明している。パレスチナ自治区ガザ地区で戦闘を続けているイスラエルの代表は招待する方針だという。市は「(イスラム組織)ハマスとイスラエルの戦闘については、世界各国を見ても判断が定まっていない。招待することで、平和の発信につなげたい」としている。

このような式典について、個人の価値観を振りかざし、偏狭な【モラリズム moralism】で主催者の総合的判断を非難して要求するのは、【反リベラリズム anti-liberalism】に他なりません。

その要求の仕方も極めて不適切です。「あと何人のガザの人が殺されたら、あと何人の女性たちが犠牲になったら、あと何人の子どもたちが孤児になったら」と広島市に要求するのは心理学で感情的恐喝 emotional blackmail】と呼ばれている【モラル・ハラスメント harcèlement moral】の代表的手法です。

感情的恐喝とは、コントロールしたい相手に対し、人間関係における【恐怖感 fear】【義務感 obligation】【罪悪感 guilt】=【FOG】を与えることで、特定の行動を選択しないよう狡猾に仕向けるものです。

感情的恐喝は一見すると正しそうに見えますが、実際には美徳を振りかざすことで相手を傷つけて支配するテクニックであり、論理的議論を阻害するものです。『サンデーモーニング』のコメンテーターは、概してこの感情的恐喝を乱発しています。心を支配されないよう注意が必要です。

藤原かずえ | Hanadaプラス

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