外部電源なしで何度も飛べる新素材採用の「太陽光発電ドローン」を研究者が開発

Image:JKU

オーストリア・リンツにあるヨハネス・ケプラー大学の研究者は、小型ドローンに自律的に電力を供給する超薄型太陽電池を開発した。

いまや一般にも普及したドローンだが、その飛行時間は長くて数十分しかないものがほとんど。その理由は、ドローンは飛行するために可能な限り小型軽量なバッテリーを搭載する必要があり、小型軽量なバッテリーには限られた電力しか蓄えることができないからだ。

このようなドローンの飛行時間を延ばすためには、バッテリーそのもののエネルギー密度を上げるか、エネルギーを自給自足する仕組みが必要になる。

研究者らは、市販の小型ドローンに「ペロブスカイト」と呼ばれる新素材を用いた超薄型軽量な太陽電池を開発し、外部接続なしで飛行と充電のサイクルを繰り返すことを可能とした。ペロブスカイト太陽電池はスピンコーティングやインクジェットといった方法で製造できるため、よりシンプルで従来のシリコンセルに比べてコスト効率が高い。

⁠研究の筆頭著者の一人クリストフ・プッツ氏は「超薄型で軽量の太陽電池は、航空宇宙産業におけるエネルギー生成方法に革命をもたらす大きな可能性を秘めているだけでなく、幅広い用途がある」と述べている。たとえばウェアラブル製品やIoT製品などの多くは、それほど大きな電力を必要とせず、また小型であるため、薄く軽量な太陽電池から継続的に電力を供給できれば、その利用の幅は拡がるはずだ。

準2Dペロブスカイト太陽電池はその厚さが2.5ミクロン(1ミクロン=1/1000 mm)未満で高い柔軟性を備えつつ、太陽光~電力変換効率20.1%に加え、重量1gあたり44Wという驚異的な出力密度を備えているという。研究者らは薄膜上に透明な酸化アルミニウム層を形成してこの太陽電池材料を最適化、さらに低いガス透過性と透湿性、高い柔軟性を持つ透明なプラスチック基板を組み合わせて、電池の動作安定性を大幅に向上した。

この技術の概念実証テストでは、科学者らは24個の太陽電池セルを用意し、ソーラーホッパーと呼ばれる市販のCX10小型クアッドコプターのフレームにリング状アレイとして配置した。このドローンの総重量のうち、アレイ部分は全体の1/25、セル自体は1/400の重量しかない。

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太陽光を想定した人工光源下で行われた屋内試験では、ドローンをハーフスロットルで10秒間ホバリングさせ、その後着陸して30分間充電のサイクルを6回繰り返した。サイクルはすべて正常に完了し、そのまま無限に続けることも可能だったと研究者は述べている。

次の試験では、ドローンをハーフスロットルでホバリングさせるところは同じだが、バッテリーが切れるまでそのまま高度を維持させた。この試験は太陽電池を接続した状態とバッテリーのみの状態で行われ、太陽電池を接続下状態では飛行時間が約6%延長されることが確認できた。

たったの6%しか飛行時間が延びないのであれば、ほとんど意味がない気もするが、研究者らはこの技術でドローンを無限に飛行させるのではなく、太陽の光が届く場所では常にドローンを充電できるようにすることを意図しているのだという、また、ドローン自体がもっとエネルギー効率の高いものであれば、飛行時間の伸び率ももっと大きかっただろうとした。

この技術はまだドローンを継続的に飛ばし続けるには至らないが、少なくとも外部電源への接続なしに、連続的な充電~飛行のサイクルを実行可能であり、超薄型軽量な太陽電池の効率の良さと持続可能性が実証できたと研究者らは述べている。

今回はドローンを用いた実験だったが、この新技術には、捜索救助活動、大規模な地図作成作業、さらには宇宙探査における電力供給などへの応用の可能性が考えられている。

自給自足の電力でドローンを飛ばした例としては、火星ヘリコプターこと「Ingenuity」の例が思い出される。Ingenuityは当初、火星で1~5回の飛行を想定していたが、最終的に想定の14倍となる72回もの飛行をこなし、自給自足可能な太陽光発電が過酷な環境における飛行機器にいかに重要であるかを印象的に実証した。もしIngenuityに搭載された太陽電池がもっと軽量で高効率だったなら、この飛行回数ももっと多かったことだろう。

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